# 白いマーガリンを「自分の手で」バター色に染めさせられた時代

配信日: 2026-08-03(夕18:00配信) / 通巻 第63号 / カテゴリ: 食

スーパーの冷蔵コーナーでマーガリンを手に取ると、当然のようにバターとよく似た黄色をしている。誰もそれを不思議に思わない。長年そういうものだと刷り込まれているうえ、マーガリンはもともと植物油からできているのだから、色くらい自由につけて当然だと考えるだろう。

ところが20世紀半ばまでのアメリカでは、この「バター色のマーガリン」自体が違法だった。マーガリンを乳製品バターに似せた黄色に着色することを禁じる州法が、酪農が盛んなウィスコンシン州をはじめ複数の州に存在していたのである。背景にあったのは酪農業界、いわゆる乳業ロビーの圧力だ。安価な代用品であるマーガリンが本物のバターと見分けがつかない色で売られては、酪農家の商売が立ち行かなくなる、という理屈だった。実際、マーガリンはもともとバターより安価な代用品としてヨーロッパで生まれ、瞬く間に安価な輸入品としてアメリカの酪農市場を脅かす存在になっていた。だからこそ酪農州の議会は、味や品質ではなく「見た目」だけを狙い撃ちにする、いささか奇妙な規制に踏み切ったのである。「安ければ味も見た目もバターに近いほうがいい」という消費者心理と、「安さで負けるなら見た目だけは守りたい」という酪農業界の思惑がぶつかった結果が、この珍妙な着色禁止だったといえる。

とはいえ消費者だって、白くパサついた見た目より黄色いバター色のほうが食欲をそそられる。そこでメーカーが編み出したのが、白いままのマーガリンに黄色い着色料入りの小袋を同梱して売るという苦肉の策だ。家庭ではこの小袋を指でつぶし、中の色素をマーガリンの塊全体に練り込む。つまり「着色」という工程そのものを、店ではなく家庭のキッチンに丸投げしていたわけである。ボウルに白いマーガリンを入れて小袋を割り、ヘラや手でひたすら揉み込む作業は、決して手早いものではなく、色ムラを残さず均一な黄色に仕上げるまで数分かかることも珍しくなかったという。子どもがこの練り込み作業を手伝う家庭も多く、当時を知る世代にとっては台所の懐かしい光景の一つになっている。

この奇妙な規制は一時的なブームではなく、実に長期間続いた。マーガリンの着色規制が各州に広がったのは19世紀末のことで、最後までこの制度を維持していたウィスコンシン州がようやく着色マーガリンの製造・販売を解禁したのは1967年。つまり、白いマーガリンを自宅で黄色く染めるという儀式は、およそ70年近くにわたってアメリカの台所の日常だったのだ。「アメリカの酪農地帯」を自任するウィスコンシン州が最後まで抵抗を続けたのは象徴的で、合理性よりも業界保護が優先された結果、消費者は毎回同じ手間を強いられ続けた。たかが色ひとつのために、法律が家庭の台所仕事にまで踏み込んでいたわけで、規制の力点がどこに置かれていたかがよくわかるエピソードだ。

ちなみに、当時のマーガリンのパッケージに書かれていた手順は「1. 色の玉をつぶす」「2. 袋を揉む」という、拍子抜けするほど簡潔な二段階指示だった。家庭の食卓にまで法律の影響が及び、しかもその解決策が「説明書付きのDIY着色キット」だったという点に、この規制の間の抜けた本気度がにじんでいる。

## 出典

- [かつてアメリカでは「バターっぽい黄色いマーガリン」が違法だった](https://clickamericana.com/topics/food-drink/yellow-long-legal-battle-butter-colored-margarine-1948) — "メーカーは白いマーガリンに黄色い着色料の小袋(色玉)を同梱して販売し、消費者は自宅でその小袋を潰して中身を練り込み、自分で「バター色」に着色していた。"
- [How the Government Came to Decide the Color of Your Food](https://www.smithsonianmag.com/innovation/how-government-came-to-decide-color-your-food-180973962/) — "They sold uncolored margarine with a capsule filled with yellow color solution so that consumers could just mix the dye with margarine at home themselves."(major)
- [I can't believe it's not yellow: A peek into Wisconsin's quirky margarine laws](https://www.wpr.org/justice/i-cant-believe-its-not-yellow-peek-wisconsins-quirky-margarine-laws) — "But in 1967, Wisconsin joined the rest of the nation in allowing the manufacture and sale of yellow margarine."(major)

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