# 絞首刑で何が起きるか知るため、法医学者は自分を12回吊った

配信日: 2026-11-03(朝7:00配信) / 通巻 第239号 / カテゴリ: 科学

法医学は、亡くなった人の体に残された痕跡から、そこで何が起きたのかを読み解く学問だ。首吊りや絞首刑で人体がどうなるのかという研究も、当然、遺体を調べることで積み上げられてきた。生きている人間で試すわけにはいかない。

ところが、20世紀初めのルーマニアに、それを試した法医学者がいる。名はニコラエ・ミノヴィチ。首を吊られたとき体に何が起こるのかを突き止めるため、彼は自分の首に縄をかけた。それも一度や二度ではない。自らを被験者とする吊り下げ実験を、12回も繰り返したのだ。

手順はこうだ。まず、引いても締まらない結び方の縄を首にかけ、足が地面から2メートル浮くところまで吊り上げられる。縄には張力を測る計器を取り付けておく。結び目を首のどこに当てるかを変えながら、視界の異変、肌の色の変化、耳鳴りといった症状と、それが現れるまでの速さを記録していく。助手のひとりが縄を引き、経過時間を声に出して数える。一回あたりはおよそ5秒。少しずつ時間を延ばしていき、最長で25秒ぶら下がり続けることに成功した。

彼にはもう一つ狙いがあった。1832年に自分の首を2分間絞めたという医師の記録を、破るつもりだったという。だが結果は遠く及ばなかった。最後の実験で、彼は実際の絞首刑で使われる、引けば締まる結び方の縄を選んだ。足は地面に着けたままだ。それでも持ちこたえられたのは4秒で、彼は助手に中止の合図を出した。研究書の中では「どれだけ勇気を振り絞っても、3、4秒より長くは耐えられなかった」と、繰り返し弁解を書き添えている。この一回のあとは、1か月のあいだ物を飲み込むたびに痛みが走った。

こうした成果は200ページの研究書『絞首の研究』にまとめられ、1904年にルーマニア語版、翌年にフランス語版が出版された。約200件の首吊り事例を結び目の種類などで分類した、本格的な一冊である。自分の体だけでは足りず、志願者の首の血管を5秒ほど圧迫する実験も行った。頭が熱くなる感覚や手足のしびれといった証言も、そこで集めている。

それから約40年後の1941年、ミノヴィチは独身のままブカレストで亡くなった。死因は声帯の病で、繰り返した首への負荷が影響したのではという見方もある。

ちなみに、彼は自宅と、自宅に集めたルーマニア民芸品のコレクションを国に遺している。絞首刑を調べ尽くした男の家は、今はブカレストの民俗美術館として公開されているのだ。

## 出典

- [絞首刑で何が起きるかを知るため、法医学者は自分を12回吊るした](https://en.wikipedia.org/wiki/Nicolae_Minovici) — "Minovici performed twelve hanging experiments involving himself as the subject"
- [The Man Who Hanged Himself 12 Times for Science](https://gizmodo.com/the-man-who-hanged-himself-12-times-for-science-5109860) — "despite of all our courage we could not take the experiment any longer than three to four seconds"(major)
- [20 Self-Experimenting Medical Researchers in History](https://historycollection.com/20-self-experimenting-medical-researchers-in-history/12/) — "He performed not one, not two, but twelve hanging experiments involving himself as the subject... he didn't even come close to break the record, but this didn't stop him from publishing in 1904 a 200-page book titled Study on Hanging."(web)

## こちらもちなみに

- [人は向きを変えるとき、なぜか反時計回りを選んでしまう](https://chinamini.app/a/2026-09-17/evening.md)
- [しゃっくりが68年止まらなかった男](https://chinamini.app/a/2026-10-25/morning.md)
- [本を書くたび刑期が縮んだかつてのルーマニアでは、囚人が続々と作家デビューした](https://chinamini.app/a/2026-10-01/evening.md)

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