# 脳のない粘菌が、東京の鉄道網をほぼそのまま再現した

配信日: 2026-11-06(朝7:00配信) / 通巻 第245号 / カテゴリ: 科学

東京とその周辺を走る鉄道網は、人間の技師たちが設計し、敷いてきたものだ。どの街とどの街をつなぐか、どこを通せば費用が抑えられるか、一本の路線が止まっても全体が麻痺しないか。そうした条件を人が計算して引いた線である。

ところが2010年、それとよく似た網を、脳も設計図も持たない生き物が独力で作り上げてしまった。北海道大学の手老篤史氏らを中心とする日本とイギリスの研究チームが、科学誌『Science』に報告した実験だ。主役はモジホコリという粘菌で、カビのような見た目をしているが、体は一個の細胞でできている。どれだけ大きく広がっても細胞はひとつのままで、管を枝のように伸ばしながら餌を探す。

研究チームは、湿った培地の上に、首都圏の主要都市の位置に合わせてオートミールのフレークを置いた。粘菌にとっては餌である。そして東京にあたる中心の一点に粘菌を置き、あとは外へ伸びるにまかせた。モジホコリは強い光を嫌うので、山や湖のように線路を通せない地形は、光を当てて表現した。

置かれた粘菌は、まず皿いっぱいに管を密に張り巡らせる。先の見通しなど持っていないので、とにかく全方向へ伸ばすのだ。そこから、餌につながらなかった枝を細らせて捨てていく。枝の中には原形質が流れていて、流れが速い枝はさらに太くなり、流れが滞った枝は細って消える。だからこそ、よく使われる経路だけが網として残る。網全体が1時間に数センチ進むこともあるほど、形は刻々と変わっていく。

出来上がった網は、ひと目見ただけでも実際の首都圏の路線図とよく似ていた。そして実際に比べてみると、コスト、移動の効率、一部が切れたときに全体が耐える強さ。そのどれをとっても、人間が設計した東京の鉄道網と同等だった。線路をあちこちに敷いてみて、成績の悪い路線を撤去していく。人間の計画者がやったら無計画と呼ばれそうな手順で、同じ水準の答えにたどり着いてしまったのだ。

研究チームはこの振る舞いを、管を流れる量に応じて太さが変わるだけの単純な数式に落とし込んだ。中央の司令塔なしに、安くて丈夫な網が自分で組み上がる仕組みである。携帯端末同士が直接つながる通信網やセンサーの網など、人間側の設計にも応用できるのではないかと期待されている。数えきれないほどの進化の選別をくぐってきた方法なのだから、人間の技師にも学ぶものがあるのかもしれない。

ちなみに、この粘菌は迷路も解く。脳も目も持たないまま、入口から出口までの最短経路を見つけ出してしまうという。

## 出典

- [脳のない単細胞生物が、人間の技師が設計した東京の鉄道網を独力で再現した](https://www.sciencedaily.com/releases/2010/01/100121141051.htm) — "Atsushi Tero from Hokkaido University in Japan, along with colleagues elsewhere in Japan and the United Kingdom, placed oat flakes on a wet surface in locations that corresponded to the cities surrounding Tokyo, and allowed the Physarum polycephalum mold to grow outwards from the center."
- [Slime mould attacks simulates Tokyo rail network](https://www.nationalgeographic.com/science/article/slime-mould-attacks-simulates-tokyo-rail-network) — "the slime mould's methods (or lack thereof) produced a network with comparable cost, efficiency and tolerance for faults to the planned human attempt."(major)

## こちらもちなみに

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