配信: 2026-07-09 07:00(JST)
朝刊
第12号

米国で禁止された「おもちゃ入りチョコ」を売るため、菓子を“分離”させた会社

チナミニチンチラが読み上げます(3分59秒)

世界中の子どもたちに愛されてきた卵形チョコ「キンダーサプライズ」。銀紙とプラスチックの殻を割ると、中からチョコの層とともに小さなカプセルがコロンと転がり出て、開けた瞬間まで何のおもちゃが入っているか分からないワクワク感が魅力だ。ヨーロッパやアジア、中南米など100か国以上で長年販売されてきた定番菓子で、誰もが知る"世界のお菓子"のひとつだ。

ところが、これほど世界中で買えるのに、長らくアメリカ本土だけでは正式に販売することができなかった。旅行者が持ち帰った品が税関で没収される、という都市伝説めいた話まで語られるほど、アメリカでは事実上の禁止商品として扱われてきたのである。

理由は、菓子とは一見無関係な1938年制定の連邦食品・医薬品・化粧品法(FDCA)という古い法律にある。この法律は「食べられない異物を、機能的な価値もなく食品の中に埋め込むこと」を禁じている。たとえばアイスキャンディーの棒のように、食べる行為そのものを助ける道具なら例外だが、チョコの中に埋まったプラスチックカプセルのおもちゃは食事に何の機能も持たない、ただの異物とみなされてしまう。FDA(米食品医薬品局)は長年この立場を崩さず、キンダーサプライズの輸入・販売を事実上ブロックし続けてきた。誤飲や窒息事故を防ぐために作られた古い規制が、80年近くの時を経て、皮肉にも世界的ヒット商品ひとつの足かせになっていたわけだ。

これに対しメーカーのフェレロが編み出した回避策が面白い。おもちゃを「チョコの中に埋め込む」代わりに、卵形のプラスチック容器を仕切りで二つに分け、片側にスプーンですくうチョコクリーム、もう片側にカプセル入りのおもちゃを完全に別区画として収める新商品を開発したのだ。それが「キンダージョイ」である。見た目や体験は本家キンダーサプライズにかなり近いのに、法律上は「食品の中に異物が埋め込まれている」状態ではなくなる。この構造上のわずかな違いだけで規制の対象外となり、ようやく2017年からアメリカでも堂々と店頭に並べられるようになった。菓子の中身を仕切り一枚で分離するという物理的な工夫だけで、80年近く販売できなかった商品がクリアできてしまったのは、法律の条文と実際の商品構造がいかに紙一重の関係にあるかを物語っている。なお現在も、おもちゃがチョコに直接埋め込まれた本家キンダーサプライズそのものはアメリカでは正式には売られておらず、店頭に並ぶのはあくまで分離型のキンダージョイだけだという点も興味深い。

ちなみに、

この1938年法の条文をよく読むと、おもちゃ入りのチョコのような商品はなんと「adulterated(混ぜ物入り・不良品)」という、本来は異物混入や腐敗食品を指す物々しい法律用語で分類されている。かわいい卵形チョコが、法律の条文上では腐った食品や汚染された食品と同じカテゴリーに並べられていたのだから、なんとも大げさな話である。