プリンだけを1万2千個買い占めた男、生涯マイルを手に入れる
マイレージを貯めるには、飛行機にたくさん乗るしかない――普通はそう思われている。出張や旅行を重ね、地道に搭乗記録を積み上げていく。マイレージプログラムとはそういうものだ、と誰もが思い込んでいる。
ところが1999年、アメリカのあるエンジニアは、一度も余分なフライトに乗ることなく、125万3千マイルという途方もない数のマイルを合法的に手に入れた。しかも元手はわずか数千ドル程度。種明かしはプリンだった。
きっかけは、冷凍食品メーカー、ヘルシーチョイス社が展開していたキャンペーンだ。対象商品のバーコードを10枚集めて送ると500マイルがもらえるという内容で、しかも応募回数に上限は設けられていなかった。多くの消費者は冷凍ディナーなどを何十食も買ってこのキャンペーンに応募したが、デイビッド・フィリップスという名のこのエンジニアは電卓を叩き、対象商品の中で最も安いのが1個25セントのプリンカップであることに気づく。バーコード10枚で500マイルなら、プリンカップ10個(2.5ドル)で500マイルが手に入る計算になる。冷凍ディナーを何箱も買うより、はるかに効率がいい。健康志向の消費者向けにこうした販促キャンペーンは珍しくなかったが、ここまで極端な形で穴を突いた買い物客は他にいなかった。
彼はスーパーに交渉し、対象のプリンカップだけを1万2千個以上まとめて買い占めた。単純計算でも投じた金額は3千ドルほどだったとされ、当時航空会社が販売していたマイルの購入価格と比べても破格の安さだった。当然、プリンの中身は不要で、必要なのは蓋のバーコードだけ。フィリップスは妻シンディとともに、家に山のように積み上がったプリンからひたすらバーコードを剥がす作業にとりかかった。
こうして集めたバーコード証明書をすべて郵送すると、ヘルシーチョイス社はキャンペーンの条件通り、フィリップスに125万3千マイルを付与した。これは当時の航空会社の上級会員資格に必要なマイル数を大きく上回る数字で、彼は生涯ゴールド会員の資格まで一気に手にしたとされる。実際に飛行機に乗った距離はほぼゼロのまま、スーパーとポストの往復だけで手に入れた特典だった。
キャンペーンの締め切りが迫るにつれ、フィリップスはバーコードを剥がす作業が到底間に合わないことに気づく。何しろ、1万2千個分のプリンからバーコードを一つひとつ切り離さなければならないのだ。そこで彼の機転が光る。残ったプリンをまるごと救世軍(キリスト教系慈善団体)に寄付し、施設のボランティアにバーコード剥がしを手伝ってもらったのである。プリンは施設で消費され、慈善団体は寄付を受け取り、フィリップスは必要なバーコードを確保できた。まさに三方よしの解決策だった。ルールの隙を突いてマイルを手に入れたこの倹約家夫婦は、最後の一手まで抜け目なかった。