配信: 2026-07-14 18:42(JST)
夕刊
文化第23号

完成した瞬間に金庫封印、公開は100年後というSF短編映画がある

チナミニチンチラが読み上げます(4分19秒)

映画は、多くの人に観てもらうために作られる。監督は評価を求め、俳優は演技を届けたいと願い、製作会社は興行収入を追う。当たり前すぎて疑う余地もない前提のはずだ。

ところが2015年、この前提を真正面から覆す映画が発表された。タイトルは『100 Years』。宣伝コピーはなんと「決して観ることのない映画」。完成した瞬間から、誰の目にも触れさせないことを目的に作られた、世界でも類を見ない一本である。

仕掛けたのは映画会社ではなく、フランスの高級コニャックメーカー、レミーマルタン。看板商品「ルイ13世」の宣伝として企画されたこの短編SF映画は、脚本と主演をジョン・マルコビッチが務め、監督には『シン・シティ』などで知られるロバート・ロドリゲスを起用するという、豪華すぎる布陣で撮影された。にもかかわらず、完成したフィルムはその日のうちに金庫へ封印され、公開予定日は2115年11月18日。撮影から実に100年後だ。金庫の扉が開くのは、100年のカウントダウンが完了したそのときだけと発表されている。

なぜ100年なのか。理由はルイ13世そのものにある。このコニャックは、複数世代のセラーマスターが受け継ぎながら最長100年かけて熟成させた原酒をブレンドして作られる、いわば「一人の職人の一生では完成を見届けられない酒」だ。映画の封印期間をその熟成年数にぴったり重ねることで、「今は誰も味わえないが、確実に未来へ届く」という商品の本質を、映像という形でそのまま体現させた。単なる話題作りの企画ではなく、ブランドの哲学を100年がかりで証明しようとする、壮大な広告でもあるわけだ。

つまりこの映画の主役は、観客ではなく「時間」そのものだと言える。関わった俳優もスタッフも、自分が作った作品の完成披露どころか、公開そのものを一生涯目にすることはない。それでも一流のクリエイターたちがこの企画に参加したという事実が、逆説的にこの映画の説得力を高めている。100年後にこの金庫を開ける人物も、開ける瞬間に立ち会う観客も、2015年の時点ではまだ誰一人生まれていないかもしれないのだ。

しかも厄介なのは、この約束が本当に守られるかどうかを、今を生きる誰一人として検証できない点だ。金庫が無事に保管され続ける保証はどこにもない。火災や災害、レミーマルタンという企業自体の消滅や買収によって、封印の存在が忘れられてしまう可能性すらゼロではないだろう。それでも発表から10年以上が過ぎた今も、公開予定日は2115年11月18日という一点から動いていない。観客が実在するかどうかも分からない未来に向けて、ただひたすら約束だけが独り歩きしている状態こそが、この企画の一番奇妙で、ロマンのあふれるところだ。

ちなみに、

監督のロバート・ロドリゲスは参加の動機について「誰も観ることのない映画に関わるというコンセプトに惹かれた」と語っている。作品を観てもらうことが仕事の大前提であるはずの映画監督が、「絶対に観られない」からこそ引き受けた仕事があるという逆説は、この企画の異様さを何より雄弁に物語っている。

チナミニ毎朝 7:00
ちなみに、ハチミツは腐りません。数千年前のハチミツも、まだ食べられ……
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