配信: 2026-07-15 18:00(JST)
夕刊
生き物第25号

タコが泳ぐより歩くのを好むのは、心臓が原因だった

チナミニチンチラが読み上げます(3分44秒)

タコといえば、丸い体をくねらせながら海中をふわりと泳ぐ姿を思い浮かべる人が多いだろう。テレビの自然番組でも、墨を吐きながらジェット噴射で一気に逃げていくシーンはおなじみだ。あの俊敏な泳ぎこそが、タコにとって当たり前の移動手段だと思われている。

ところが実際のタコは、海中を泳ぐよりも、8本の腕を使って海底を這うように歩くほうを好む。理由は筋力や体の重さの問題ではなく、体の中にある心臓の仕組みにある。

タコには心臓が3つある。そのうち2つは「鰓心臓」と呼ばれ、体中を巡ってきた血液を鰓へ送り込む専門の心臓だ。ここで血液は二酸化炭素を放出し、代わりに酸素を受け取る。残る1つが我々の想像する一般的な心臓で、鰓で酸素を受け取ったばかりの血液を全身の筋肉や器官へ届ける役割を担う。いわば、タコの活動エネルギーの供給源だ。

ここに大きな落とし穴がある。タコが泳ぐ、すなわちジェット噴射で移動するとき、この体心臓の拍動が止まってしまうのだ。全身に酸素を送る心臓が働かなければ、筋肉はすぐに酸素不足に陥り、タコは急激に疲労する。つまりタコにとって「泳ぐ」という行為は、自らの循環器系の一部を一時的に停止させながら移動するようなもので、体力の消耗が激しい。速さと引き換えに全身への酸素供給を犠牲にするこの仕組みは、いわば「奥の手」であり、普段使いには向いていないのだ。

だからこそタコは、よほど急いで逃げる必要がある場合を除けば、腕を使って海底をゆっくり歩くことを選ぶ。歩行中は3つの心臓が通常どおり働き続けるため、酸素の供給が途切れず、長時間の移動でも疲れにくい。海中を優雅に泳ぐ姿はテレビで目にする華やかな一面にすぎず、日常のタコはむしろ地味に海底を歩き回っている生き物なのである。

3つの心臓のうち1つが、移動方法によって止まってしまうという体の設計は、人間の感覚からすると驚くべきものだ。もし人間が全力で走るたびに心臓の働きが一部止まるとしたら、誰も好んで走ろうとはしないだろう。タコが「泳げるのに歩く」という選択をしているのは、まさにその状況に近い。次に水族館でタコを見かけたら、優雅に泳ぐ瞬間ではなく、腕を使ってのっそりと歩く姿にこそ目を向けてみてほしい。それこそが、心臓の都合に合わせて生きるタコの「素顔」なのだから。

ちなみに、

タコの祖先は貝のような身を守るための殻を持っていたと言われている。元々持っていた硬い殻を捨てる代わりに、「全身がほとんど筋肉」という極めて特異な体と、身を守るための瞬発的な移動手段としてジェット推進を獲得した、というのが定説だ。

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ちなみに、ハチミツは腐りません。数千年前のハチミツも、まだ食べられ……
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