「@」は国によって、カタツムリにも猿のしっぽにも子犬にもなる
もはや説明不要、メールアドレスに必ず登場する記号「@」。英語では単に「at」と読み、住所や単価を示す実務的な記号として、世界中で見た目も呼び名もほぼ同じだと思われがちだ。
ところが、この記号を「動物」に見立てて呼ぶ国が少なくない。しかも国によって連想される動物がまるで違う。
イタリア語では@を「キオッチョラ」と呼ぶ。これは「カタツムリ」の意味で、記号の渦を巻いた形をカタツムリの殻に見立てた呼び名だ。丸まった中心から外側へ向かって線が広がっていく様子は、たしかに庭先でよく見る巻き貝の模様とよく似ている。
オランダ語では@を「アーペンスタート」、直訳すると「猿のしっぽ」と呼ぶ。木の枝からぶら下がった猿が、体を支えるためにくるりと幹に巻きつけたしっぽの先端を思い浮かべればいい。カタツムリの殻と猿のしっぽ、由来にする生き物こそ違うが、どちらも記号の「渦・カーブ」という視覚的な特徴に着目した命名という点は共通している。
さらに毛色が変わるのがロシア語だ。ロシアでは@を「サバーチカ」、つまり「小さな犬」「わんこ」と呼ぶ。カタツムリや猿のしっぽが記号の曲線部分だけを生き物の一部に置き換えた命名なのに対し、犬は記号全体をまるごと一匹の生き物に見立てている点が特徴的だ。確かに、まるで丸まって眠る子犬のシルエットのようにも見えるから不思議だ。同じ渦巻き模様のはずなのに、見る人によって甲殻の巻き貝にも、樹上のしっぽにも、丸まった子犬にも変身してしまう。
この違いが面白いのは、@自体は世界共通で見た目がまったく変わらないという点だ。つまり食い違っているのは記号そのものではなく、それを眺める人間の側の「連想の癖」である。渦巻き模様から何を思い浮かべるかは、その文化がふだん目にしている生き物や物のイメージに強く引っ張られる。イタリア人がカタツムリを頻繁に見て、オランダ人が猿を身近に感じ、ロシア人が犬を飼っているから、という単純な話ではないだろうが、少なくとも「同じ形が複数の答えを持ちうる」ことを、@というたった一文字が証明してくれている。
これほど個性的なあだ名が各国にあるにもかかわらず、イタリアでは日常会話で単に英語風に「at」と言ってしまうことも多いという。せっかくカタツムリという可愛い愛称があるのに、結局は素っ気なく英語読みで済ませてしまうのは、なんだかもったいない気もする。