配信: 2026-07-17 07:01(JST)
朝刊
生き物第28号

ラットはくすぐられると、人間には聞こえない声で笑う

チナミニチンチラが読み上げます(3分52秒)

笑いは人間だけの特権だと、多くの人が信じている。表情豊かな動物はたくさんいるが、声を立てて「笑う」のはヒトの専売特許だろう——そう思っていないだろうか。

実はラットも笑う。しかも研究で確認されている。神経科学者ジャーク・パンクセップらのグループが、若いラットをくすぐる実験を行ったところ、人間の耳には聞こえない超音波でラットが「チチチ」と鳴くことが確認された。周波数は50kHz前後。人間の可聴域の上限(おおむね20kHz程度)を軽く超えているため、専用の機材で記録しない限り、私たちには一切聞こえない静かな「笑い声」だ。

この鳴き声は、痛みや恐怖に対する悲鳴ではない。ラットが遊びを求めているときに発する鳴き声と一致しており、Panksepp と Burgdorf の2000年の論文では、若いラットへの遊び的なくすぐりが高頻度の50kHz超音波発声を引き起こすことが報告されている。しかも論文の題名には「くすぐりによって条件づけられた報酬、および無条件の報酬への反応」という一節があり、くすぐる行為そのものだけでなく、くすぐられることを連想させる合図にも同様の超音波の「笑い」で応じることが示されている。

驚くべきはここで終わらない。くすぐられたラットは、その手を嫌がって逃げるどころか、くすぐった研究者の手を自分から追いかけ回す。手が離れると、もっとくすぐってほしくてラットの方から寄っていくのだ。Panksepp らの論文でも、ラットが以前自分を「笑わせた」特定の人間の手を、後になっても好んで探し求めることが記録されている。実験前は警戒されていたはずの手が、くすぐられるたびにむしろ歓迎される存在に変わっていくというのも興味深い。

さらに二段目の驚きがある。ラットは手を追いかけるだけでなく、その場で飛び跳ねる行動も見せる。ドイツ語で「Freudensprünge(喜びの跳躍)」と名付けられたこの跳躍は、くすぐられた喜びが抑えられずにあふれ出たような動作だ。2016年にScience誌に発表されたIshiyamaとBrechtの研究では、ラットの体性感覚皮質——触覚情報を処理する脳の領域——がくすぐりに強く反応し、その神経活動が超音波発声・接近行動・跳躍という一連の「笑いの一式」と結びついていることが示された。つまりくすぐりへの反応は単純な反射ではなく、脳の中の快の回路を通った、感情としての「笑い」に近いものだと考えられている。

ちなみに、

この笑いやすさは個体によって差があり、育った環境や遺伝的な系統によっても変わることがわかっている。Panksepp と Burgdorf の論文の副題には「社会的な飼育環境と遺伝的要因の影響」という言葉があり、仲間と一緒に育ったラットほど笑い声を出しやすく、系統によっても笑いの出方に差が見られるという。人懐こく育てば、くすぐりへの反応もより豊かになるらしい。

チナミニ毎朝 7:00
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