配信: 2026-07-21 07:00(JST)
朝刊
生き物第36号

ゾウはお互いを「名前」で呼び合っている、しかもその仕組みは人間に近い

チナミニチンチラが読み上げます(3分58秒)

動物が鳴き声で仲間とやり取りをすること自体は、今さら驚くような話ではない。イルカやオウムが相手を「名前」で呼び分けているという研究も、ここ数年でよく知られるようになってきた。ただしこの「名前」という仕組み、実は動物界全体を見渡してもごくわずかな種でしか確認されていない、かなり特殊な能力だ。

2024年、コロラド州立大学などの国際研究チームが、ケニアの野生アフリカゾウの鳴き声469件を機械学習で解析したところ、ゾウが個体ごとに向けた「名前」のような音声ラベルを使い分けていることが明らかになった。研究チームが実際に録音した呼びかけをスピーカーで再生する実験を行うと、名指しされた本人だけが鳴き返したり、スピーカーのほうへ近づいてきたりする反応を見せたという。単に群れの誰かに向けた鳴き声ではなく、特定の一頭だけに宛てた呼びかけとして機能していたことになる。

ここで面白いのは、ゾウの「名前」の作り方が、先に名前呼びが知られていたイルカやオウムとはまったく違う原理で成り立っている点だ。イルカやオウムは、相手固有の鳴き声(シグネチャーコール)を自分で「真似」することによって、その個体を指し示す。つまり相手の声のモノマネそのものが名前として機能している。ところがゾウは相手の声を模倣しない。研究チームによれば、ある鳴き声がどの個体に向けられたものかは、その鳴き声が受け手自身の声にどれだけ似ているかとは関係なく、音響的な構造そのものから予測できたという。声真似に頼らず、まったく任意の記号を相手に割り当てている、ということだ。

この「相手の声をコピーするのではなく、恣意的な符丁を個体に結びつける」というやり方は、私たち人間が名前を使う仕組みにかなり近い。人間も、赤ちゃんの泣き声や口癖を真似て名付けをするわけではなく、本人の声とは無関係な音の並びを「名前」として一人ひとりに紐づけている。研究者はナショナル ジオグラフィックの取材に対し、この能力はこれまで人間に固有のものだと考えられていたと語っている。

ゾウは母系の家族集団で暮らし、生涯を通じて数十頭から百頭を超える規模の知り合いを記憶しているとされる動物だ。声真似に頼らない抽象的な「名前」を持つことは、姿の見えない離れた仲間に対しても特定の一頭を名指しして呼びかけ、複雑に絡み合った社会関係を維持するうえで役立っている可能性がある。まだ解明の途中にある研究分野だが、鳴き声一つひとつに個体名を与えるという発想を、ヒト以外の動物が独自に獲得していたという事実は、名前というものの起源を考え直させる。

ちなみに、

こうして「名前」と呼べる水準の呼びかけがはっきり確認されているのは、声真似型のイルカやオウムと、声を真似ない今回のゾウくらいで、動物界全体で見てもかなり稀な特性とされている。同じ「名前」という機能にたどり着くのに、種によってこれほど違う道筋を通っているという事実自体が、進化の面白さを物語っている。

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