プリングルズは法廷で「ポテトチップスではない」と主張して敗訴した
スーパーの棚に並ぶ、あの円筒形の容器。薄く反り返った黄金色のかけらを一枚つまんで、疑う人はまずいない。「じゃがいもを薄く切って揚げたポテトチップスだ」と、誰もが当然のように思っている。パッケージにも堂々と大きなじゃがいものイラストが描かれ、味の名前も「サワークリーム&オニオン」のように、いかにも芋のスナックらしい顔をしている。
ところが2008年、そのプリングルズを製造販売するP&Gは、ロンドンの高等裁判所でまったく逆の主張を展開した。「プリングルズはポテトチップスではない」。動機は美食論争ではなく、税金である。イギリスの1994年付加価値税法は、「じゃがいもから実質的にすべて作られた製品」にのみ17.5%の税を課すと定めていた。裏を返せば、じゃがいも由来と言い切れない食品なら非課税になる余地があるということだ。P&G側の弁護団はここに目をつけ、プリングルズに使われているじゃがいも由来の成分(ポテトフレーク)はわずか42%にすぎず、残りは小麦でん粉・とうもろこし粉・米粉を練り合わせたスラリーと植物油だと主張した。さらに、あの均一に反り返った形状そのものが「自然界のじゃがいもには存在しない」人工的な造形であることも根拠に挙げ、これは薄切りにして揚げたポテトチップスというより、生地を型に押し込んで成形した工業製品だと結論づけたのである。
この理屈を、高等裁判所は一度は認めてしまう。プリングルズは法的に「ポテトチップスではない」ことになり、P&Gは非課税扱いを勝ち取った。売り場では誰もがポテトチップスだと思って買っている菓子が、法律の世界では成分表の一行によって別物に変わってしまった瞬間である。
しかし、話はこれで終わらなかった。課税を逃した形になった英国税関当局(HMRC)がこれを不服として控訴し、2009年5月、控訴裁判所は一転して判断を覆す。「プリングルズは紛れもなくポテトチップスである」と。控訴審の裁判官たちは、42%という数字だけを機械的に当てはめる高等裁判所の解釈を退け、消費者が実際にどう受け止めているかという常識的な感覚を重視すべきだと指摘した。じゃがいも以外の材料が多く混ざっていても、見た目や食感、売り場での扱われ方から見て、これは誰の目にもポテトチップスの一種だ、というわけである。結果としてP&Gは過去にさかのぼって課税され、多額の追徴を支払うことになったとされる。「うちの商品はポテトチップスではない」と自ら法廷で主張した会社が、まさにその主張のせいで税金を取り戻すどころか余計に払う羽目になった、皮肉な結末だった。お菓子の成分比率をめぐる争いが、大企業を巻き込む本格的な法廷闘争にまで発展した稀有な事例である。
この控訴審の判決文には印象的な一節が残っている。裁判官は、原料の一部が異なるからといって製品の呼び名を否定するのは筋が通らないとしたうえで、「ラズベリーの入ったゼリーを見せられても、たいていの子どもは“ゼリーでできている”と素直に答えるだけの分別を持っている」という趣旨のたとえを持ち出した。細かい成分表の数字よりも、誰もが感じる直感のほうが正しいこともある——そんな教訓を残した判決だった。