配信: 2026-07-23 07:00(JST)
朝刊
文化第40号

世界一有名なキャラクターの初登場作は、自分の名前がついていないゲームだった

チナミニチンチラが読み上げます(3分37秒)

もし「世界でいちばん有名なゲームキャラクターの初登場作は?」と聞かれたら、多くの人は反射的に『スーパーマリオブラザーズ』と答えるのではないだろうか。あの赤い帽子と青いオーバーオール、跳ねるジャンプ音まで思い浮かぶくらい、マリオと言えばマリオの名を冠したゲームがセットで記憶されている。

ところが実際にマリオが画面に初めて姿を現したのは、マリオという名前がタイトルにすら入っていないゲームだった。1981年に任天堂が発売したアーケードゲーム『ドンキーコング』である。このゲームはドンキーコングシリーズの第1作であると同時に、マリオにとってもゲーム史上初めての登場作でもある。つまり、後に主役級の人気を誇ることになるキャラクターが、まったく別のキャラクターの名を冠した作品の中でひっそりと産声を上げたことになる。

生みの親は、当時まだ任天堂でキャリアを積み始めたばかりの若手デザイナーだった宮本茂氏。今でこそ「ゲームの神様」とまで呼ばれる人物だが、『ドンキーコング』を手掛けた時点では、まだ経験の浅い一開発者に過ぎなかった。その手から、後に映画化やテーマパーク化までされる「もっとも有名なキャラクターの一人」が生まれたのだから、キャリアの初期に転がり込んだ大当たりと言っていい。しかも本人はこの時点で、自分が生んだキャラクターが後にシリーズ化され、任天堂という会社そのものの顔にまでなるとは想像もしていなかっただろう。

考えてみれば、これは奇妙な巡り合わせだ。普通、主役キャラクターといえば自分の名を冠した作品から華々しくデビューするものだと思いがちだ。しかし現実のマリオは、あくまで「ドンキーコングという主役の物語」の中の一登場人物としてスタートしている。いわば脇役、あるいはゲスト出演のような立場からのし上がって、シリーズの看板を背負うどころか会社そのものの象徴にまでなってしまった格好だ。ゲームやアニメの世界では、脇役やライバルキャラクターが後に主役の人気を上回るという現象自体は珍しくない。しかし後にマリオが築くことになる規模——数え切れないほどの続編、映画やテーマパークへの展開、世界的な知名度——を思うと、そのスタート地点の地味さとのギャップはあまりにも際立っている。あの誰もが知る顔が、実は「別人の名前がついたゲーム」の中で静かにデビューしていたという事実は、知ってしまうと誰かに話したくなる類の話ではないだろうか。

ちなみに、

この世界的キャラクターを生み出した任天堂は、元々は花札の製造・販売会社であり、本社は渋谷でもシリコンバレーでもなく、今も京都にある。花街や神社仏閣が並ぶ古都の一角から、地球規模で愛されるキャラクターが生まれ育ったというのも、なかなか面白い取り合わせだ。

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