パンダの繁殖に使われる「パンダポルノ」という奥の手
動物園の人気者といえばパンダだ。白黒のふわふわとした愛らしい姿はどの動物園でも一番人気で、絶滅危惧種として各国が保護と繁殖に多額の予算と情熱を注いでいる、というのは誰もが知るイメージだろう。パンダを増やす取り組みと聞けば、広い飼育スペースや専門の栄養管理、繊細な体調管理といった手厚いケアを思い浮かべる人が多いはずだ。パンダの赤ちゃんが生まれたというニュースに世界中が沸くのも、それだけ誕生自体が珍しい出来事だからにほかならない。
ところが繁殖の現場で実際に行われていることは、そのイメージとはだいぶ様子が違う。動物園で飼育されているパンダは、そもそも交尾そのものに積極的ではないことが分かっている。オスとメスを同じ空間に入れても、ただ並んで座っているだけで何も起こらない、という状況がしばしば起きるのだ。そこで飼育員たちが繁殖の助けとして実際に使っているのが、交尾中のパンダを撮影した映像である。飼育スペースの近くにモニターを設置し、その映像を見せることで飼育下のパンダに性的な興奮を促そうとする。英語圏ではこの手法がそのまま「パンダ・ポルノ」と呼ばれ、動物園の繁殖担当者の間では半ば公然の手段として知られている。
なぜ飼育下のパンダはここまで恋愛に不器用なのか。背景には野生と飼育環境の決定的な違いがあるとされる。野生のメスパンダの発情期は年に一度、しかもわずか数日間しかない。その短い期間に複数のオスが縄張りに集まって競い合い、メスはその中からもっとも力強い相手を選び取る。ところが飼育下ではあらかじめ相手が一頭に固定され、しかも人間に常時観察される閉じた空間に置かれる。野生であれば発情を強く促すはずの競争や選択のプロセスが、そもそも成立しないというわけだ。パンダポルノは、この欠けた刺激を映像で人為的に補おうとする、いわば苦肉の策と言える。そして、この人工繁殖の難しさこそが、パンダという種の存続を脅かす一因にもなっている。単に野生の生息数が減っているだけでなく、飼育下で増やすための手段そのものがうまく機能しないという、もう一段深刻な問題を世界中の動物園が抱えているのだ。
タイのチェンマイ動物園で飼育されていたオスのパンダ、チュアンチュアンのケースはその苦労をよく物語っている。パートナーのメスパンダ、リンフイと引き合わせても交尾に至らず、飼育員は例のパンダポルノの映像を見せて刺激を試みた。それでもチュアンチュアンは一向に乗り気にならず、動物園の担当者は「彼はただ交尾したがらなかった。彼女のことを友達のように見ていたんだ」と困惑気味に振り返っている。結局、映像作戦をあきらめた動物園側は、リンフイを妊娠させるための最後の手段として人工授精に踏み切ることになった。恋の駆け引きを映像で代用するのがどれほど難しいかを、このエピソードは物語っている。ふわふわの人気者の恋愛下手は、飼育員たちにとって笑い話では済まされない切実な課題なのである。