ラットは人間と「かくれんぼ」で遊ぶ、しかもルールを理解して
実験用のラットといえば、迷路を走らされたり注射を打たれたりする、どちらかというと不憫な存在というイメージが強い。人間相手に感情豊かな遊びを楽しみ、しかもそのルールまで頭で理解する姿は、なかなか想像しにくいはずだ。
ところが、ベルリンのフンボルト大学の研究チームが実験用ラット6匹に「かくれんぼ」を教えたところ、単なる芸を仕込んだだけとは思えない行動が観察された。ラットは中の見える透明な箱ではなく、わざわざ見えない不透明な箱を選んで身を隠し、見つかるまでほぼ無音で息を潜めて待つ。物音一つ立てず、扉が開いても飛び出さずにじっと待機する徹底ぶりだ。そして人間の「探す係」に発見された瞬間、態度は一変する。「フロイデンシュプルング(歓喜跳び)」と呼ばれる、四肢を縮めて弾むように跳ね上がる動作を繰り返しながら、甲高い声で鳴き続けるのだ。単に「隠れる」という一つの動作を覚えたのではなく、「隠れて、見つかったら喜ぶ」というゲーム全体の構造そのものを理解しているとしか思えない反応である。
さらに面白いのは、ラットたちが「隠れる係」だけでなく「探す係」もこなせるようになった点だ。人間が段ボールの間仕切りや家具の陰に隠れると、ラットは部屋を駆け回って探し当て、見つけると隠れていたときと同じように歓喜跳びを見せた。研究チームはこの様子について、ラットが単なる条件反射で決まった動きを繰り返しているのではなく、状況に応じて自分の役割を切り替えながらゲームのルールそのものを把握していたと結論づけている。訓練にかかった期間もそれほど長くなく、数週間ほど人間の実験者と根気強く遊びを積み重ねただけで、複雑な役割交代を習得したという点も、ラットの学習能力と社会性の高さを物語っている。
この理解の深さは、脳活動の記録からも裏づけられている。研究チームはラットの脳の様子を記録しながら遊ばせており、隠れる番のときと探す番のときとで、まったく異なる活動パターンが現れることを確認した。しかも見つかる直前や見つける直前になると、その活動パターンはさらに切り替わっていく。つまりラットの脳の中では、自分が今どちらの役割を担っているか、そしてゲームが今どの局面にあるかという情報が、リアルタイムで処理されていたことになる。実験用の動物として一律に扱われがちなラットが、これほど繊細な社会的ゲームを、役割の切り替えごと理解しながら心から楽しんでいたという事実は、研究チーム自身にとっても大きな驚きだったという。
この一連の「ラットの遊び」研究は、まったく畑違いに見える発見から始まっている。原点にあるのは、ラットの脇腹をくすぐると、人間の耳には聞こえない超音波の声で「笑う」ことを突き止めた研究者の系譜だ。くすぐられて喜ぶラットがいるなら、遊びそのものを心から楽しんでいる可能性もあるはずだ――そんな発想のもと、かくれんぼや追いかけっこを通じてラットの「遊びの快楽」を脳科学的に解き明かすシリーズ研究が続けられてきた。今回の実験も、その系譜の上に積み重ねられた一歩というわけだ。