KFCの秘伝11種スパイス、実は「作っている会社」ですら半分しか知らない
「秘伝のレシピは金庫の中に眠っている」——ケンタッキーのオリジナルチキンにまつわるこの話は、企業秘密の代名詞のように語られてきた。実際、1940年にカーネル・サンダースが完成させた11種のハーブとスパイスの配合は、本人の署名入りの手書き文書としてルイビルの本社の金庫に保管されている。写しはデジタルを含めて存在しないとされる。ここまでは、よく知られた話だ。
凄いのはその先である。金庫よりも念入りに設計されているのは、実は「作り方」のほうだ。あのスパイスミックスは、一社では組み立てられない仕組みになっている。まずGriffith Laboratories社が材料の半分をブレンドし、その混合物をMcCormick社へ送る。そこで残りの半分が加えられて、世界中の店舗に配られるミックスがようやく完成する。さらに最後の安全装置として、コンピュータ処理システムが両者のブレンドを標準化し、どちらの会社も完全なレシピを手にできないようにしている。KFCのチキンの味を実際に作っている当事者も、その全体像を知らないのだ。
社内も似たような状態だ。20年近く在籍するKFCの統括シェフ、ボブ・ダスは「自分も秘密の配合を知らない」と明かしている。知っているのはごく一部の最上級幹部だけで、2001年のニューヨーク・タイムズによれば、レシピを知る従業員は守秘義務の誓約書に署名したひと握りだという。金庫の錠の番号を知る従業員はたった1人、正確な配合を把握して責任を負うのは別の2人。ある業界誌によれば、幹部たちは保安上の理由から一緒に移動することを禁じられているという。2008年には、この黄ばんだ一枚の紙の警備体制を刷新するため、書類が一時的に別の場所へ移されたことがニュースになった。
なぜ特許を取らないのかというと、取れば内容が出願書類として公開され、しかも権利はいずれ切れるからだ。切れた瞬間に誰でも丸写しできてしまう。守る方法は「誰も知らない状態を維持すること」しかない、という判断だ。そもそも1952年に始まったフランチャイズ契約は、チキン一羽につき4セント(のちに5セント)を払う代わりに秘密の配合を使わせる、という形をとっていた。秘密そのものが商品だったわけである。
もっとも、外からの挑戦は絶えない。1983年の著書『Big Secrets』で、ウィリアム・パウンドストーンは研究所にミックスを分析させ、検出されたのは小麦粉・塩・コショウ・MSG(うま味調味料)だけだったと書いた(KFCはこれを否定している)。2016年にはサンダースの甥ジョー・レディントンが、古いスクラップブックから11種のハーブとスパイスが並ぶ手書きレシピを見つけたと主張。シカゴ・トリビューン紙が実際に作ってみたところ、MSGを足すなどの微調整で「見分けがつかない」出来になったという。ただしそれが本物かどうかは、結局のところ分かっていない。
サンダース本人がケンタッキーの味を猛烈に非難した事がある。1970年代、彼はKFCのグレイビーを「ヘドロのようだ」、マッシュポテトを「壁紙用の糊だ」と公言した。当然会社は創業者を名誉毀損で訴えたが、敗訴した。裁判所いわく、レシピの開発者たるサンダースが、元のレシピ通りに作られていないと指摘するのは名誉毀損にあたらない——というもの。生みの親が、最も辛辣な批評家になったという、なんとも皮肉な話だ。