配信: 2026-08-31 07:00(JST)
朝刊
第118号

バニラ風味の正体、実はビーバーのお尻の分泌物かもしれない

チナミニチンチラが読み上げます(3分35秒)

アイスクリームのバニラ味、いちご味のお菓子、コーラの奥深い甘い香り。パッケージに「天然香料」とだけ書かれていたら、たいていの人はバニラビーンズや果物のエキスを思い浮かべるはずだ。植物由来だろうと、疑う人はまずいない。まして、原料が動物のお尻から出た分泌物だなどとは、想像すらしないだろう。

ところが、その「天然香料」の正体が、ビーバーのお尻から出る分泌物だったとしても不思議ではない。名前は「カストリウム」。ビーバーの尾の付け根近く、肛門のすぐそばにある分泌腺「キャスターサック」から採れる物質で、アメリカの消費者団体CSPIは、バニラ風味やその他の食品に使われる天然香料として長年利用されてきたと指摘している。お尻から採れると聞くと不衛生な印象を持ちそうになるが、実際には甘く濃厚で、レザーやムスクにも通じる複雑な香りを持つとされる。

この分泌物は、単なる裏技的な代用品というわけではない。アメリカ食品医薬品局は、カストリウムを「一般に安全と認められる物質」に分類しており、法的にも堂々と使用できる食品添加物として扱われている。バニラの主成分バニリンだけでは出しにくい、コクのある甘さの厚みを添えられる素材として、香料メーカーの間では評価が高い。

とはいえ、「アイスやお菓子の多くにビーバーのお尻から出る分泌物が入っている」と考えるのは早合点だ。まずカストリウムの採取自体が大仕事で、ビーバーを一頭ずつ捕獲し、分泌腺を丁寧に取り出したうえで、数か月かけて乾燥・熟成させて初めて香料として使える状態になる。工場でまとめて量産できる合成香料とは違い、手間も時間も桁違いにかかるわけだ。ナショナルジオグラフィックの報道によれば、こうした手間をかけてもなお、アメリカ国内で消費されるカストリウムおよびその抽出物・液体を合わせた量は、年間292ポンドに満たないという。国全体でこの量ということは、個々の製品に含まれる割合は限りなくゼロに近い。合成バニリンなど安価な代替香料が普及したこともあって、現在では食品業界での採用はごく一部に縮小し、需要の中心はむしろ手間のかかる天然素材そのものに価値を見出す香水業界へと移っている。

ちなみに、

ビーバー自身はこの分泌物を縄張りの主張や仲間へのマーキングに使っている。その独特の芳香ゆえに、香水業界では何世紀も前から「動物系ノート」の代表格として珍重されてきた。マッコウクジラ由来のアンバーグリスや、ジャコウジカのムスクと並び称される、動物由来香料の名門のひとつだ

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