ロブスターは昔、「海のゴキブリ」と呼ばれていた
今どき、ロブスターと言えば結婚式のディナーや誕生日のご褒美に選ばれる、押しも押されもせぬ高級食材だ。殻を割って身をバターに浸すあの儀式には、どこか特別な日の空気がある。1ポンドあたり数千円という値段を見ても、誰もこれを「安物」だとは思わないだろう。
ところが19世紀より前のアメリカでは、この甲殻類は「海のゴキブリ」と呼ばれ、心から蔑まれていた。植民地時代のニューイングランドでは、嵐が去ったあとの浜辺にロブスターが山のように打ち上げられ、誰でもほぼ無償で手に入れることができた。あまりにありふれていたせいで、家の周りにロブスターの殻が散らばっている光景は「貧困のしるし」と見なされたという。安くて豊富なこの食材は、貧しい人々や囚人、年季奉公人、さらには農場の豚や山羊の餌にまで回される、いわば二流品の扱いを受けていた。当時の記録によれば、ロブスターは畑の肥料や釣りの餌としても消費されており、食卓に出す価値のある食材とは見なされていなかったようだ。
では、「海のゴキブリ」はいつ、どうして高級食材に成り上がったのか。転機は19世紀半ばに訪れる。1842年にメイン州で最初の缶詰工場が操業を始め、同時期に鉄道網が拡大したことで、海から遠く離れた内陸の都市にも新鮮なロブスターが届けられるようになった。缶詰という保存技術があったからこそ、鮮度が落ちやすい甲殻類でも遠方まで運べるようになったのだ。それまでロブスターの存在すら知らなかった内陸の人々にとって、この食材はまったく新しい味覚として受け止められることになる。ロブスターを食べたことも悪評を聞いたこともない客たちは、何の先入観もなく新鮮で正しく調理された身を味わい、ただ美味しいという理由だけで気前よく金を払った。負のイメージを知らなければ、同じ食材が一夜にして贅沢品に変わってしまう――ロブスターの大出世物語は、私たちの味覚もまた思い込み次第でいくらでも変わりうることを教えてくれる。
ロブスターがかつて蔑まれていたことを象徴する逸話として、今なおまことしやかに語られている話がある。「植民地時代、囚人にロブスターを週に2〜3回以上食べさせることを禁じる法律があった」というものだ。身分の低い人々にはロブスターばかりを食べさせていたという、当時の劣悪な処遇を物語るエピソードのようにも聞こえる。しかし、食文化史家のキャスリーン・カーティンによれば、これは「最もしつこく繰り返されている食の俗説の一つ」だという。植民地時代の法令や契約書をどれだけ調べても、そのような条文はおろか、存在を裏付ける記録すら見つかっていない。さらに興味深いのは、この逸話の由来をたどると、1900年代以前には話の主役がロブスターではなく、サーモンだったという点だ。つまりこの話は、時代とともに登場する食材だけをすり替えながら生き延びてきた、根拠のない都市伝説だったのである。「今では人気の食材だが、かつては貧しい人々に押しつけられる食べ物だった」。人々がそんな劇的な逆転の物語を求めた結果、その時々でもっとも都合のよい食材が、後から主役に選ばれてきたのかもしれない。
出典
独立した出典 6件- Did New England prisoners really eat lobster in colonial times?boston.com
- What you hear about lobsters, and what's true - Island Instituteislandinstitute.org
- Lobster History: How America's 'Poverty Food' Became Luxury Cuisinelobsteranywhere.com
- From Trash to Treasure. The Great American Lobster History.samuelsseafood.com
- 一般In colonial America, lobster was an undesirable food fed to prisoners. - History Factshistoryfacts.com
- 一般Everything But the Shark Week: Considering the Lobsters - Falvey Library Blog, Villanova Universityblog.library.villanova.edu