配信: 2026-07-19 18:00(JST)
夕刊
地理第33号

史上最大級の津波は、ビルが軽々沈むほどの高さ524mまで駆け上がった

チナミニチンチラが読み上げます(4分4秒)

津波と聞くと、防潮堤を越えて数メートル、大きな地震でもせいぜい十数メートルから数十メートルの高さで押し寄せる災害をイメージする人が多いだろう。2011年の東日本大震災でさえ、局所的な遡上高は40メートル前後とされ、それだけで「記録的」と語られた。普段のニュースで目にする津波の高さの感覚からすれば、100メートルを超える波というのはもはや想像の範囲外にある。

ところが1958年、アメリカ・アラスカ州のリツヤ湾で起きた出来事は、その常識をまるごと吹き飛ばす。この日発生した津波は、湾の対岸にそびえる斜面を524メートルの高さまで駆け上がり、道中の木々を根こそぎなぎ倒しながら通り過ぎた。524メートルといえば、NASAの解説記事がわざわざ「ニューヨークのエンパイアステートビルより高い」と書き添えるほどのスケールで、記録に残る中では史上最大級の津波とされている。ビル一棟がまるごと波に沈んでもまだお釣りが来る高さ、と言えばイメージしやすいだろうか。

なぜこれほどの高さに達したのか。引き金はマグニチュード7.8クラスの地震だった。ただし、この津波は一般的な巨大津波のように広い海底が持ち上がって発生したものではない。激しい揺れによって、リツヤ湾の最奥部にそびえる切り立った斜面が崩落し、岩盤の塊がそのまま湾へと落下したのだ。その量はおよそ3000万立方メートル、重さにして約9000万トンにのぼる。これほど巨大な質量が、幅わずか数キロという狭い入江に向かって一気に流れ込んだのだから尋常ではない。

狭い湾に大質量が飛び込んだことで、行き場を失った水は逃げ道を求めて対岸の斜面へと爆発的に跳ね上がった。浴槽に石を落とすと水しぶきが縁を越えて飛び散るのと原理は同じだが、リツヤ湾では「石」の代わりに9000万トンの岩盤が使われたようなものだ。津波というより、湾全体を使った巨大な「水しぶき」に近い現象だったと言った方がイメージに近いかもしれない。ギルバート入江の入り口付近では、水の勢いで木々が根こそぎなぎ倒され、山肌がむき出しになった帯状の跡が刻まれた。

この跡は後に地質学者ドン・ミラーが現地入りして精密に測量し、最も高い場所で1,720フィート、メートル換算で524メートルという数値を確定させた。ミラーが計測したこの高さは、その後の研究でも塗り替えられておらず、現在も観測史上最大の津波到達高度として語り継がれている。狭い地形に閉じ込められた水が逃げ場を求めて跳ね上がるという単純な物理現象が、これほど桁外れの結果を生み出したことになる。地球上でこの規模の水しぶきが記録されたのは、後にも先にもこの一件だけだ。

ちなみに、

岩盤が湾に叩きつけられた瞬間の轟音は、80キロメートルも離れた場所でも聞こえたという。都市でいえば東京から静岡県境近くまで届く距離感で、静かな入江の奥で起きた崩落が、いかに桁違いの衝撃を伴っていたかがうかがえる。

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ちなみに、ハチミツは腐りません。数千年前のハチミツも、まだ食べられ……
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