配信: 2026-08-10 18:00(JST)
夕刊
科学第77号

ヒロシマ原爆の10倍の爆発が起きたのに、ほとんど誰も気づかなかった

チナミニチンチラが読み上げます(4分32秒)

人類が実戦で使用した兵器の中で、広島に投下された原子爆弾ほど「破壊力の物差し」として世界共通の基準になっているものはない。ニュースで巨大な爆発事故が報じられるたびに、この爆弾の何倍かで規模を語ろうとする者は多い。原爆資料館は今も世界中から見学者を集め、あの一発がもたらした惨禍は学校の授業でも繰り返し教えられる。それほどまでに、広島原爆は「これ以上ない破壊」の代名詞として人類の記憶に深く刻まれている存在だ。

ところが2018年12月18日、地球上では実際にその10倍を超えるエネルギーを解き放つ爆発が起きていた。場所はロシア・カムチャツカ半島沖、ベーリング海の上空。カムチャツカといえば活火山が連なり、人口密度が世界でも指折りに低い僻地として知られる。そんな人里離れた海域の上空に、直径およそ12メートル、ビルでいえば4階建てほどの大きさの小惑星が猛スピードで突入し、大気との摩擦で空中爆発を起こしたのだ。解放されたエネルギーはTNT火薬換算で173キロトン。広島原爆の推定爆発力はおよそ15キロトンとされているから、単純計算でもその10倍を優に超える規模になる。これほどの爆発が実際に地球上で起きていたにもかかわらず、当時大きなニュースになることはなく、多くの人はその存在すら知らないまま今日に至っている。

なぜ「広島の10倍」が話題にすらならなかったのか。理由の一つは、そもそも誰もこの爆発を事前に予測できていなかったことにある。直径10メートル前後の小天体は、地球に接近する天体を監視する望遠鏡網でも捕捉が難しく、明るい火球となって大気圏に突入するその瞬間まで、存在にすら気づかれないことが珍しくない。もう一つの理由は、爆発の起きた場所と高度だ。NASAジェット推進研究所も、爆発の高度と発生場所が人里から遠く離れていたことから、地上の誰にとっても脅威にはならなかったと説明している。小惑星による空中爆発は地表付近で起きる爆発とは違い、上空数十キロという高い位置で発生するため、衝撃波が広い範囲に拡散しながらエネルギーを失っていく。人口密集地の真上でなければ、たとえ広島の10倍のエネルギーが解放されても、地上にいる誰かが窓ガラスの揺れに気づくことすらなく終わってしまうのだ。

もっとも、これは「安全だったから良かった」というだけの話ではない。爆発の場所とタイミングが少しでもずれ、人口の多い陸地の上空で起きていたら、被害はまったく違った形になっていたはずだ。地球には日々、こうした「紙一重の大惨事」が誰にも気づかれないまま降り注いでいる。私たちが平穏に暮らせているのは、天体の軌道と地表の分布が生む、ただの巡り合わせにすぎないのかもしれない。

ちなみに、

この爆発の全容が世に伝わったのは、その日のうちにではなく、しばらく経ってからのことだった。目撃者もほとんどいない外洋上空での出来事だったため、NASAなどの専門機関が衛星などの観測データを分析し、事後になって規模を割り出したことで、ようやく「あの日ベーリング海の上空で広島の10倍の爆発が起きていた」という事実が知られるようになったのだ。当日は誰にも気づかれないまま、その小惑星は静かに燃え尽きていた。

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