配信: 2026-07-19 07:01(JST)
朝刊
生き物第32号

真空の宇宙に10日間放置しても、水をかけたら生き返って卵まで産んだ生き物

チナミニチンチラが読み上げます(4分7秒)

宇宙空間は、地球上のあらゆる生き物にとって即死の環境だと考えられている。空気がなく気圧もほぼゼロなので体内の水分は沸騰するように失われ、太陽に面した側は灼熱、影になった側は極寒になる。そこに宇宙放射線まで容赦なく降り注ぐ。哺乳類はもちろん、たいていの微生物でさえ数秒で干からびて終わりのはずだ。

ところが2007年、欧州宇宙機関(ESA)はこの「常識」をあっさり覆す実験を行った。体長1ミリに満たない、八本足の小さな生き物クマムシを乾燥させた状態で人工衛星の外側に直接固定し、空気も気圧もない真空の宇宙空間に、宇宙放射線を浴びせながら10日間さらしたのだ。地上の実験室でやるだけでも過激な条件を、わざわざ本物の宇宙でそのまま実行したことになる。

10日後、衛星ごと回収されたクマムシに水を与えると、多くの個体がまるで何事もなかったかのように動き出した。それだけでなく、その後も卵を産み、次の世代まで残すことに成功している。ESAの研究チームは、真空という極度の乾燥状態も宇宙放射線も、クマムシにとっては大きな問題にならなかった、と結論づけている。

なぜここまで平然としていられるのか。鍵は「乾眠(クリプトビオシス)」と呼ばれる特殊な休眠状態にある。クマムシは体内の水分をほぼ完全に抜き、代謝活動を限りなくゼロに近づけた縮んだ姿になる。この状態では細胞内のタンパク質やDNAが壊れにくい構造に保たれ、乾燥や放射線によるダメージから内部を守ることができるとされる。実際、太陽紫外線から遮蔽された個体では、水を与えてから30分以内に68%以上が蘇生したという報告もある。ただし全員が無事だったわけではなく、その後の死亡率は決して低くなかったという。それでも生き延びた個体の多くが、卵という「動かぬ証拠」を残せた点が、この実験の驚きどころだ。単に乾燥に強い生物というレベルを超えて、真空・宇宙放射線という複合的な脅威にまとめて耐えてみせたことになる。

この結果は、生物学の外側にも波紋を広げた。もし地球の生物が装備なしで真空と放射線を耐えられるなら、隕石の破片などに付着した微小な生物が惑星間を移動して生き延びる可能性も、頭ごなしに否定はできなくなる。もちろんこれはあくまで実験結果から広がる一つの発想であり、実際に生命が天体間を移動したと証明されたわけではない。

ちなみに、

この実験ではさらに過酷な条件を課された個体もいた。遮蔽なしで太陽紫外線を直接浴びたグループで、その強さは地表の1000倍以上にもなる。さすがにこちらは多くが命を落としたものの、それでも一部の個体は生き延び、地球に帰還したのちに問題なく子孫を残せたという。乾燥・真空・宇宙放射線・強烈な紫外線という、地球上ではまず同時に経験しない条件のフルコースを耐え抜いた生き物が、実在するということだ。

チナミニ毎朝 7:00
ちなみに、ハチミツは腐りません。数千年前のハチミツも、まだ食べられ……
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