配信: 2026-09-02 18:00(JST)
夕刊
生き物第123号

ホッキョクグマは、毛も肌も白色ではない

チナミニチンチラが読み上げます(4分39秒)

「雪原に白い巨体」——ホッキョクグマの絵はだいたいこれで固定されている。言語によっては「シロクマ」とそのまま呼ばれるほどだ。ところが、この熊の毛皮をいくら探しても、白い色素は出てこない。

外側を覆う長い刺し毛(ガードヘア)は、色素をまったく含まない透明な毛である。しかも中身が空っぽで、一本一本が中空のチューブ、早い話がストローだ。長さは5〜15センチほど、その下には5センチほどの緻密な下毛が生えていて、真冬の毛皮は1平方ミリあたり9〜16本という密度になる。透明なストローの大群、それがあの白さの正体だ。

種明かしは光の側にある。透明な毛に日光が入ると、内部の空洞やケラチンの粒が散乱点として働き、光は毛の内壁で跳ね返りながら方々へ散っていく。隣の毛でも同じことが起きるので効果は増幅され、どの波長も吸収されないまま返ってくる。すべての色が混ざって戻れば、目に映るのは白だ。白い毛の動物をいろいろ調べた研究者たちによれば、こんな管状の芯と散乱点を毛の中に持っているのはホッキョクグマだけだったという。海を泳いだあとに毛へ付く塩の結晶まで、散乱を増やす側に加勢する。

さらに毛をかき分けると、下から黒い皮膚が出てくる。剃ったらアメリカクロクマの親戚にしか見えないだろう、と言われるほどの黒さだ。ただし生まれたときは違う。手のひらに乗る500グラムほどの新生児は、目も見えず歯もなく、短い白い産毛の下からピンクの肌が透けている。鼻も肉球もピンク。それが生後3〜4か月、母子が巣穴から出てくるころに黒く変わる。

面白いのは、この色変わりが何のためなのか、まだ決着がついていないことだ。有力な仮説は二つあり、どちらも太陽がらみ。濃い色ほど日光の熱を吸収しやすいので北極で暖を取るのに有利、というのが一つ。もう一つは紫外線対策で、雪や海氷や海面に反射して増幅された日差しを、メラニンの黒さで防いでいるという見方である。決め手には欠けるが、野生でも飼育下でもアルビノのホッキョクグマは一頭も報告がなく、黒い皮膚と黒い目はこの種にとってよほど重要らしい、とだけは言える。

そして、毛の持つ透明で中空という構造は、たまに妙な作用を起こす。1979年、温暖な土地の動物園で緑色のホッキョクグマが現れ話題となった。原因は藻である。暖かく湿った条件では、刺し毛の中の空洞が藻にとって居心地のいい温室になり、池の藻が入り込んで繁殖する。毛そのものが透明だから、中で増えた緑がそのまま外へ透けて見えるという寸法だ。ついでに言えば、日光を浴び続けた毛は酸化して黄ばむので、換毛してしばらく経つと全体的に黄色く見える。夏に毛が薄くなれば下の黒い皮膚が透けて灰色がかる。白・黄・灰・緑と、この熊はわりと器用に色を変える。

ちなみに、

色が変わるのは皮膚だけではない。子グマの舌は最初ピンクで、数か月かけて黒いまだら模様が広がっていく。大人になるとピンクが多く残る個体、まだらが濃すぎて青っぽく見える個体、ほぼ真っ黒な個体とさまざまで、口の天井も頬の内側も暗い色をしている。この舌の色に生態学的な意味があるのかどうかは、専門家にもわかっていない。

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