煉瓦1個ごとに課税されたら、業者は煉瓦そのものを巨大化させて対抗した
レンガ造りの家や塀を見ると、その価格は使われた土の量や大きさに応じて決まっていると考えるのが普通だろう。大きいレンガほど材料費もかさむのだから、値段や税金も「大きさに比例する」はずだ、と。ところが実際には、大きさではなく「個数」だけを基準に課税された時代があり、その結果レンガそのものの姿が大きく変わってしまった。
18世紀末のイギリスでは、レンガの大きさに関係なく「1個いくら」で税がかけられていた。1784年、アメリカ独立戦争の戦費を賄うために導入されたこの煉瓦税は、焼き上がったレンガの個数だけを数えて税額を決める仕組みだったのだ。これに気づいた業者たちは、至極単純な抜け道にたどり着く。1個あたりのレンガを大きくしてしまえば、同じ量の建材を作るのに必要な「個数」が減り、税負担もその分軽くなるというわけだ。壁一枚分の建材を作るのに100個必要だったレンガを、ひと回り大きくして70個で済ませられれば、税額もそれだけ安くなる理屈である。
この抜け道はまたたく間に全国の窯元へ広まった。中でも徹底していたのがレスターシャーの実業家ジョセフ・ウィルクスで、1784年から1803年にかけて通常の倍近いサイズの巨大レンガ「ウィルクス・ゴブ」を製造・販売した。普通のレンガと同じ役割をこなせるのに、税金は事実上半分で済む計算になる。政府としては1個ずつ数えて税を取っているつもりだったのに、業者側は「では1個を大きくすればいい」と、制度の穴を工学的な発想で突いてきたことになる。こうして各地の窯元が競うようにレンガを巨大化させ、本来は建材の規格を保つはずの税制が、逆に規格をバラバラにしていくという皮肉な展開になった。
この攻防にとうとう手を焼いた政府は、1801年に法改正へ踏み切る。レンガのサイズに上限を設け、これを超えるサイズのレンガには税額を倍にするという規定を追加したのだ。「大きくすれば節税できる」という抜け道そのものを、サイズ超過には罰金的な倍額課税でふさぐという、なんとも回りくどい決着だった。結局この煉瓦税自体は建材産業への負担が大きすぎるとして1850年に廃止されるが、およそ半世紀もの間、イギリスの建物に使われるレンガの大きさが税制によって左右され続けたことになる。個数への課税がサイズの規格を歪め、その歪みを直すためにまた新しい規格が作られるという、税制と現場のいたちごっこがここに生まれたわけだ。
ウィルクス・ゴブを世に送り出したジョセフ・ウィルクスは、単なる抜け目ない業者ではなく、地元では運河の開拓や炭鉱の経営にも携わった名の知れた実業家だった。彼が節税目的で作った巨大レンガは、当時のレンガ需要のかなりの部分を占めるほど広まったという。税制の抜け道が思わぬ形で地域の建材史に足跡を残した例と言えるだろう。