映画『E.T.』には朗読アルバムがあり、そのナレーターはマイケル・ジャクソンだった
1982年に公開された映画『E.T.』は、少年と宇宙人の心温まる友情を描いた名作として、今も色あせない人気を誇っている。劇中で流れるジョン・ウィリアムズの壮大な音楽を思い浮かべる人は多いはずで、当時発売されたサウンドトラック盤も、てっきり劇伴だけを収めた普通のアルバムだろうと考えるのが自然だ。
ところが実際には、このレコードは単なる音楽集ではなかった。ウィリアムズの音楽に乗せて映画のストーリーをまるごと語り聞かせる、いわゆる「朗読アルバム」として制作されており、その語り手を務めたのは、なんとマイケル・ジャクソンだったのだ。当時すでに世界的なポップスターだった彼が、子ども向けの絵本の読み聞かせのような役目を引き受けていたというのは、意外な取り合わせに感じられる。当時は人気映画の内容を子ども向けに再構成したレコードやカセットが、関連商品の定番として売られていた時代でもあるが、それでも当代随一のスターが自ら語り手を務める例はまれで、『E.T.』の朗読盤はその中でもひときわ異色の企画だったといえる。
制作陣もまた豪華そのものだ。プロデューサーにはクインシー・ジョーンズが名を連ね、音楽を手がけたジョン・ウィリアムズとマイケル自身に加えて、ラッド・テンパートン、フレディ・デマン、ブルース・スウェディエンが制作に携わった。実はこの顔ぶれ、同じ1982年にリリースされ、その後空前の大ヒットとなるマイケルのアルバム『スリラー』の制作チームとほぼ重なっている。テンパートンは『スリラー』の作曲を手がけた人物であり、スウェディエンは同作のレコーディングエンジニアとして知られている。つまりマイケルは、自らの人生を変えることになる一大プロジェクトの制作と並行して、宇宙人の少年の物語を優しく語り聞かせる仕事にも取り組んでいたことになる。アルバムはMCAレコードから配給され、映画の大ヒットと相まって多くの家庭に届けられた。
なぜ世界的なポップスターがこうした企画に携わったのか、経緯を詳しく記した資料は多くないが、クインシー・ジョーンズという共通のプロデューサーを介して声がかかったであろうことは想像に難くない。スティーヴン・スピルバーグ監督の感動作を、当代随一のエンターテイナーの声で追体験できるという企画自体、当時としてもかなり異色の試みだったはずだ。子どもたちはレコードに合わせてページをめくりながら、聞き覚えのある声で宇宙人と少年の冒険をたどることになったのである。
この朗読アルバムは1984年のグラミー賞で「最優秀児童向けレコーディング賞」を受賞している。同じ授賞式でマイケルは『スリラー』により主要部門を軒並み制していたが、本人は後年、数あるグラミー受賞の中でもこの子ども向け作品の賞について「自分が最も誇りに思っている賞」と語ったと伝えられている。数々の記録的ヒットを生んだ絶頂期のスターが、静かな朗読の仕事を何よりの誇りに挙げていたというのは、彼の人物像に少し違った角度から光を当てるエピソードと言えるだろう。