プレーリードッグの警戒音は、人間の背丈や服の色まで聞き分けて伝えていた
動物の警戒の鳴き声というと、多くの人は「敵が来た」を知らせるだけの単純な悲鳴を思い浮かべるだろう。実際、アフリカのベルベットモンキーは天敵の種類によって鳴き声を変えることで知られる。ワシの声が聞こえれば空を見上げ、ヒョウの声なら木に駆け登り、ヘビの声なら足元を確認する。つまり鳴き声のバリエーションは、驚いた・怖いといった感情の強弱ではなく、あらかじめ決まった「単語」のようなものだと考えられてきたわけだ。動物にも「敵の種類くらいは伝える語彙がある」ことは、生物学ではそれなりに知られた話だ。
ところが北米の草原に暮らすプレーリードッグの警戒音は、この常識をはるかに超えていることが音響解析によって明らかになってきた。彼らはタカとコヨーテを鳴き分けるだけでなく、相手が人間だった場合、その人物がどれくらいの背丈で、どんな色の服を着ているかまで鳴き声に織り込んで仲間に伝えているという。生物学者コン・スロボドチコフらの研究によれば、警戒音は人間の大きさ・形・服の色によって変化し、「黄色いシャツを着た小柄な人物」と「青いシャツを着た長身の人物」とでは、まったく違う警戒音が発せられる。
この能力を裏づけた実験も興味深い。研究チームは体格がほぼ同じ3人の女性に、それぞれ青・緑・黄色のシャツを順番に着せ、グニソンプレーリードッグのコロニーの中を歩かせて、そのつど発せられる警戒音を録音・音響解析した。結果、青いシャツに対する鳴き声と黄色いシャツに対する鳴き声は、統計的にはっきり異なるパターンを示した。つまりプレーリードッグの発声は、単なる音量や鳴く速さの違いではなく、視覚で捉えた「色」という情報を音のパターンへと変換し、仲間に「翻訳」して届けている可能性が高いということになる。この実験結果は、プレーリードッグが単に「怖い」という感情を声に乗せているのではなく、対象の見た目という具体的な情報を符号化して伝達している証拠だと研究者は考えている。
この鳴き分けは色だけにとどまらない。体格や輪郭の違いにも反応することが分かっており、人間同士の背の高さの差だけでなく、コヨーテと見た目の似た近縁種を区別する場面でも同様の仕組みが働いているとみられる。研究者たちは「これはもう言語だ」と断定することには慎重な姿勢を崩していないが、少なくとも音の単位を組み合わせて対象の特徴を表現する、鳥のさえずりよりずっと込み入った発声システムを持つことは間違いなさそうだ、と位置づけている。動物の鳴き声は「危険か否か」の二値信号だろうという先入観からすると、これはかなりの飛躍と言っていい。
この色識別能力は万能というわけでもないらしい。同じ実験で緑色のシャツに対する警戒音は、黄色のシャツへの反応と統計的にほとんど見分けがつかなかった。人間の目には黄色と緑はずいぶん違う色に映るが、プレーリードッグにとっては近い「同じ仲間」として処理されている可能性がある。人間顔負けの観察眼で服装まで報告してくるかと思えば、色の感覚は案外人間の感覚とは噛み合っていない。そのちぐはぐさもまた、この生き物の面白いところだ。