配信: 2026-08-04 18:00(JST)
夕刊
生き物第65号

酔っ払ったミツバチは、自分の巣に入れてもらえない

チナミニチンチラが読み上げます(4分2秒)

ミツバチと言えば、規律正しく働き者、女王を中心に整然と社会を回す昆虫の代表格だ。花から花へ蜜を集め、巣の中で仲間と協力して食料を蓄える――そんな几帳面なイメージを抱いている人は多いだろう。

ところが、そのミツバチにも「酔っ払い」が存在する。雨で薄まった花の蜜は糖度が下がり、そこに気温の上昇が重なると、蜜に付着した野生酵母が糖を分解してアルコールを作り出し、勝手に発酵が進んでしまう。ミツバチはワインやビールを仕込んでいるつもりなど毛頭ないのに、それと知らずにその蜜を吸ってしまうと、人間が酒を飲んだのとほぼ同じ状態になり、飛び方がふらつき、方向感覚も怪しくなる。実際、オーストラリアの国会議事堂周辺で大量のミツバチが異常な飛び方でうろつき、通行人や職員を驚かせて一時騒ぎになったことがある。専門家が調べたところ、正体は降雨のあとの高温で蜜が発酵し、大量のミツバチが集団で酔っ払っていただけという、なんとも拍子抜けする結末だった。

面白いのはここからだ。酔って巣に戻ってきたミツバチを待っているのは、仲間の歓迎ではなく「門番バチ」による厳しい審査である。巣の入り口には常に見張り役のハチが待機しており、まるでナイトクラブの用心棒のように、戻ってきた個体をひとりひとりチェックしている。用心棒が身分証を確認する代わりに、門番バチが確認するのは「酒臭いかどうか」と「飛び方がふらついていないか」の二点だ。研究によれば、門番バチは触角を使って酔ったハチ特有の匂いを嗅ぎ分けるだけでなく、羽ばたきや着地の様子から生まれる不自然な振動パターンまで感知しており、判定に迷うことなく即座に弾き出すという。この判定は驚くほど早く、酔っ払いバチが着陸を試みた瞬間にはもう追い返しが始まっているとも言われる。

この「一発アウト」の対応は、決して意地悪や規律違反への懲罰ではない。ミツバチの巣は、集めた蜜を巣房に貯蔵して越冬用の食料にする、いわば共同の食料庫だ。もし発酵した蜜を持ち込んだ酔っ払いバチを一匹でも見逃せば、その蜜が呼び水となって周囲の貯蔵蜜まで発酵が連鎖し、最悪の場合コロニー全員分の食料が腐敗して使い物にならなくなるリスクが生まれる。個体一匹の失敗を大目に見るコストが、集団全体の越冬を左右しかねないほど大きいからこそ、門番バチは例外を一切認めない。人間社会なら「一人くらいいいじゃないか」と情に流されそうな場面で、ミツバチは徹底して線を引く。効率や個への同情より、コロニー全体の食料保全を最優先する、極めて合理的で冷徹なルールなのだ。

ちなみに、

締め出されたからといって永久追放されるわけではない。報道によれば、酔っ払ったハチは素面に戻るまでひたすら巣の外で待たされるだけで、しらふに戻れば改めて中に入れてもらえるという。門番バチの役目はあくまで罰することではなく、巣を守るための一時的な「出禁」措置というわけだ。

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