自宅裏庭に本物の原子炉を作ろうとした17歳
ボーイスカウトには、特定の分野について学び、課題を達成すると授与される「メリットバッジ」と呼ばれる技能章がある。中には「原子力」を扱う技能章もあり、原子の構造や放射線の性質を学ぶほか、燃料や制御棒、遮蔽材などを示した原子炉の模型を作る課題が用意されていた。普通なら、模型を完成させたところで学習は終わるはずである。
ところが、この技能章をきっかけに原子力へ夢中になり、自宅の裏庭で本物の原子炉を作ろうとした少年がいた。アメリカ・ミシガン州に暮らしていたデイヴィッド・ハーンである。17歳だった彼は、母親の家の裏庭の小屋に密かにこもり、家庭用の材料と持ち前の知識だけで「増殖炉」の製作を始めた。後に「放射能ボーイスカウト」の異名で語り継がれる、実在の事件だ。
ハーンは幼いころから化学実験が好きで、周期表に載っている元素を集めることに熱中しており、その対象には放射性元素も含まれていた。原子力の技能章を取得すると、興味は仕組みを学ぶことから、自分の手で核反応を起こすことへと進んでいった。彼が目指した増殖炉とは、核反応によって使用可能な核燃料を新たに生み出す原子炉である。
その材料集めは執念深かった。ハーンはキャンプ用ランタンの発光マントルからトリウムを、煙感知器の内部部品からアメリシウムを、蛍光塗料が塗られた古い時計の文字盤からラジウムを、それぞれ少しずつ抜き取って集めた。単体では微量でも、大量の製品から地道に抽出すれば、それなりの量の放射性物質が手元に積み上がっていく。こうして裏庭の小屋には、本来なら専門的な設備のもとで扱うべき物質が、防護措置も不十分なまま蓄積されていった。
さらに彼は、専門知識が必要な情報を得るために大学教授や研究者を装って行政機関や業界団体に問い合わせの手紙を送り、原子炉設計や核物質の入手経路に関する助言まで引き出していたとされる。高校生の自由研究の域を完全に超えた執念であり、相手側も本物の研究者だと信じて丁寧に回答していたというから恐ろしい。
ただし、ハーンが原子炉を完成させたわけではない。装置が核分裂の連鎖反応を維持する「臨界」に達することはなく、実際に作られたのは粗雑な中性子源だった。それでも素人の手作りが安全に制御されるはずもなく、小屋の周囲では通常の数百倍とも言われる放射線量が測定され、本人も危険を感じて装置の解体を始めていた。
最終的に警察の職務質問をきっかけにこの事件は発覚し、環境保護局が小屋一帯を有害物質サイトに指定。物置は解体され、汚染された土や資材は低レベル放射性廃棄物としてユタ州の処分場に埋められることになった。郊外のごく普通の住宅地で、規制も専門の指導も伴わない核実験がここまで進んでいたという事実そのものが、当時の関係者を震え上がらせたという。ティーンエイジャーの自由研究が、国家機関を巻き込んだ本格的な除染作業にまで発展したのである。この一件は後に雑誌記事や書籍でも取り上げられ、「放射能ボーイスカウト」の名は今もアメリカで語り草になっている。
ハーンの執念は少年時代だけでは尽きなかった。31歳になった2007年、彼は自宅アパートの共用部分から煙感知器を盗んだとして再び逮捕されている。自宅からは16個の煙感知器が見つかり、当局は内部のアメリシウムを取り出そうとしていた可能性があるとみている。かつて「放射能ボーイスカウト」と呼ばれた青年は、大人になってもなお、身近な家電から放射性物質を取り出そうとする癖から抜け出せなかったようだ。