牛同士にも「大親友」がいた
「牛」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、牧草地で群れになってのんびり草を食む、没個性的な動物の姿ではないだろうか。誰と一緒にいても大差ない、群れの一員としてただそこにいるだけ——そんなイメージを持っている人は少なくないはずだ。牛は基本的に群れで行動する社会的な動物だが、その群れの中身まで気にする人はあまりいない。
ところが、英ノーサンプトン大学の研究によって、牛にも「この子じゃなきゃ落ち着かない」と言えるほど特定の相手にこだわる、いわば「大親友」がいることが分かってきた。しかも、その絆は単なる仲良しごっこではなく、はっきりと体に表れるレベルのものだったという。
研究者クリスタ・マクレナン氏らは、酪農場の牛を対象に、普段からよく一緒に過ごし、行動をともにすることの多い「お気に入りの相手」と、あまり面識のない牛とをそれぞれ組み合わせ、群れの他のメンバーから離して30分間隔離するという実験を行った。すると、普段仲の良い相手と引き離されたときには、心拍数やストレスホルモンであるコルチゾールの値がはっきりと上昇した。ところが、その後お気に入りの相手と再会させると、これらの数値は目に見えて下がっていったという。
興味深いのは、この「安心効果」がお気に入りの相手に限られるという点だ。見知らぬ牛と同じ空間に置かれても、心拍数やコルチゾール値は高いままで、単に「誰か仲間がそばにいれば落ち着く」という単純な話ではないことが示された。牛にとって重要なのは群れの存在そのものではなく、特定の相手との関係性らしい。誰でもいいから隣にいてくれれば安心、というわけではないのだ。
もともと牛は、毛づくろいをし合ったり、並んで反芻したり、群れの中でも決まった相手と行動をともにする傾向が知られていた。今回の実験は、その「なんとなく仲が良さそう」に見えていた組み合わせが、実際にストレスの緩和という具体的な生理効果を持つことを裏づけた点で意味が大きい。単なる観察上の相性の良さではなく、離れれば体調に影響が出るほどの、れっきとした絆だったわけだ。
つまり牛は、家畜として一律に扱われがちだが、実際には個体ごとに好みの相手を持ち、その相手と離れると人間で言う「親友と引き離された寂しさ」に近い生理的反応を起こしているというわけだ。逆に言えば、気の合わない相手と閉じ込められても、心拍数の面では何のなぐさめにもならないということでもある。牛の世界にも、気の合う友達とそうでない友達がいるらしい。
この研究の元になった博士論文のテーマは、酪農現場で牛のグループを頻繁に組み替えることが、牛の福祉や乳の生産性にどう影響するかというものだった。効率化や管理の都合で牛舎のメンバーを入れ替えるのはよくある手法だが、その裏では気の合う「親友」との関係が引き裂かれ、牛が余計なストレスを抱え込んでいる可能性がある。仲良しコンビを引き離すような群れの組み替えは、動物福祉だけでなく、思わぬところで乳量にも響いているかもしれない。