ハゲワシは自分の脚に排尿する
猛禽類にかぎらず、鳥の多くは体温調節が苦手だ。人間のように全身から汗をかいて熱を逃がすことができないので、暑い日は羽を持ち上げて風を通したり、口を開けてハアハアと喉を震わせる「ガラーフラッター」で熱を逃がしたりするしかない。
ところが、アメリカ大陸に住むコンドルやハゲワシの仲間である新世界ハゲワシは、もっと直接的で、聞くとぎょっとする手段を持っている。自分の脚に、自分の尿をかけるのだ。
見た目はただの奇行、あるいは無頓着な生理現象にしか見えないだろう。だが実はこれ、「ウロヒドローシス」と呼ばれる、れっきとした体温調節の技術だ。英国の猛禽類保護団体ホーク・コンサーバンシー・トラストは、新世界のハゲワシについて「自分を冷やし、消毒するために脚に排尿する」と説明している。
仕組みは単純だ。尿(実際には尿酸と糞が混じった白い液体)を脚の表面に塗ると、その水分が蒸発する際に脚の熱を奪っていく。汗腺を持たない鳥にとって、羽毛に覆われていない裸の脚は、体の中でも数少ない「放熱板」だ。そこにわざわざ水分を供給し、蒸発させることで気化熱による冷却を得ているわけで、いわば自家製の打ち水を自分の脚だけに行っているようなものだ。北米ピアグリン基金の解説によれば、コンドルは暑い日にこの行動をとり、尿が脚から蒸発する際の冷却効果を利用しているという。
ここで終われば「賢い体温調節」というだけの話だが、この行動にはもう一段オチがある。ハゲワシは死骸に頭や脚を突っ込んで肉をあさる習性上、脚には腐敗した肉に由来する雑多な細菌がべったり付着している。ところが尿には抗菌性のある成分が含まれており、これを脚に塗ることは同時に、死骸あさりで拾った雑菌を殺菌する役目も果たしているのだという。冷房と消毒という、性質のまったく異なる二つの機能を、たった一つの動作でまかなっているわけだ。つまりウロヒドローシスは、単なる不衛生な癖どころか、彼らの健康を守る合理的な生活の知恵だったのだ。
2021年に学術誌サイエンティフィック・リポーツに発表された研究は、このウロヒドローシスが鳥類全体で見ると実はかなり珍しい行動だと指摘している。理由は単純で、頻繁に真水を飲める環境が確保できないと成立しない行動だからだ。新世界ハゲワシやコンドルのように、乾燥した土地や上空を長時間飛び回る鳥にとって、体を冷やすためだけに貴重な水分を消費するというのは、決して当たり前にできる芸当ではない。
この「脚に尿をかけて涼む」芸を使うのはハゲワシだけではない。同じ研究では、コウノトリの仲間やカツオドリ、アホウドリの仲間にも同様の行動が確認されているという。共通するのは「脚が長く、羽毛に覆われていない部分が大きいこと」と「日常的に水を飲める環境にあること」で、この二つの条件がそろわないとそもそも成立しない技だからこそ、鳥類全体では珍しい行動にとどまっているのだ。