配信: 2026-08-12 18:01(JST)
夕刊
生き物第81号

ラッコが眠るとき手をつなぐ、ロマンスではない切実な理由

チナミニチンチラが読み上げます(3分27秒)

「ラッコは仲間と手をつなぐ」というのは有名な話だ。手をつないで眠る2頭のラッコの写真は、動物系SNSでは定番の「バズる画像」であり、仲良く寄り添い、小さな前脚をきゅっと握り合う姿は、誰の目にも仲睦まじいカップルに映る。結婚式のスライドショーで「永遠の愛の象徴」として使われたり、水族館の解説で「絆の証」として紹介されたりすることも多く、多くの人はこれを愛情表現だと思い込んでいる。

ところが、この行動の本当の目的はロマンスとはほど遠い。ラッコが眠るときに手をつなぐのは、意識を失っている間に仲間を見失い、群れから外洋へ流されてしまうのを防ぐためだ。海面はたえず風と潮流に押され、無防備な状態のまま放っておかれれば、目を覚ましたときには仲間の姿が見えないほど遠くまで漂ってしまうこともある。手をつなぐ相手は恋人や夫婦とは限らず、同性同士や親子、あるいは血縁のない他人同士のこともある。つまりこれは特定の相手への「愛」の表現ではなく、群れ全体で行う集団的な安全対策なのである。

対策は手つなぎだけではない。ラッコは仰向けに浮かんで眠るとき、冷たい海水にさらされる前脚を水面より高く持ち上げて保温しつつ、体を昆布(ケルプ)にくるみ、その昆布ごと海底の岩や海藻の茂みに固定することがある。お腹の上に昆布を一枚乗せてから寝入る個体も報告されており、これによって潮に流されても元の場所に留まっていられる。

なぜここまで用心深く眠る必要があるのか。ラッコは他の多くの海生哺乳類と違い、体を覆う分厚い脂肪の層をほとんど持たない。かわりに密度の高い毛皮の中に空気を含ませ、絶えず毛づくろいと運動によって体温を保っている。つまり体力を消耗した状態で群れからはぐれてしまうと、保温も採食も一人でこなさなければならず、体力の消耗はもちろん、サメやシャチといった捕食者に襲われる危険も一気に高まる。仲間のそばで眠ることは、暖を取り合い、外敵の接近にいち早く気づき合う上でも死活問題であり、無防備な睡眠時間こそ、群れを離れるわけにはいかないのだ。

ちなみに、

子育て中の母親ラッコにとって、群れはひときわ大切な存在だ。採食のために潜水する際には、眠っている赤ちゃんが波にさらわれないよう、昆布にくるんでから海へ潜ることもあるという。母親にしてみれば我が子を守るための切実な工夫だが、傍目にはなんとも愛らしい光景である。

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