労使紛争で代表を総入れ替え、48時間で集めた草サッカー選手たちが強豪相手に見せた意地
サッカーの代表チームといえば、その国で今もっとも上手い選手たちを厳選して編成する、狭き門中の狭き門というのが常識だろう。ワールドカップや各種国際大会の舞台に立てるのは、何年もかけてプロとして実力を証明してきた選手だけ。少なくとも普通はそう思われている。
2018年9月、デンマーク代表はこの常識をまるごとひっくり返す事態に陥った。原因はデンマークサッカー協会と選手会の労使紛争だ。テレビ放映権やゲーム・グッズへの肖像使用など、商業的な権利の扱いを巡る交渉が決裂し、代表選手たちが国際親善試合への招集を拒否したのである。しかも当時のデンマーク代表は、直前まで2年近く負けなしという絶好調のチームだった。その主力を丸ごと切り捨てるのは、普通に考えれば自殺行為に近い判断だ。それでも協会は試合の中止という選択肢を取らず、驚くべき手段に出た。3部・4部・5部リーグでプレーするセミプロ・アマチュア選手、さらにはフットサルの選手までかき集め、出場実績がひとつもない選手だけのまったく新しいチームを編成したのだ。日本で例えるなら、Jリーグの下部リーグどころか、社会人リーグの選手たちを寄せ集めて代表を名乗るようなものである。招集からわずか48時間、まともな連携練習をする時間もないまま、格上のスロバキア代表とのアウェー戦、それもブラチスラバの敵地に送り込まれた。
普段は代表クラスの選手と対戦する機会などまずない面々である。試合前、イギリスのメディアはこの編成を「見分けがつかないデンマーク」と評した。順当にいけば大差での完敗、下手をすれば二桁失点の屈辱的な大敗すら予想された組み合わせだ。
ところが結果は3-0での敗戦にとどまった。数字だけ見れば負けは負けだが、内容は健闘と呼べるものだった。中でも際立ったのが、フットサルから急遽呼ばれたゴールキーパー、クリストファー・ハーグだ。普段の持ち場は5人制の小さなゴールで、11人制の広いゴールマウスを守った経験はほとんどないはずの彼が、この一戦で実に7本ものシュートを止めてみせた。地元メディアは、寄せ集めチームが「誇りを保ったまま敗れた」と評し、大きな屈辱を免れたその奮闘ぶりを称えた。開始早々の大量失点すら覚悟されていた一戦を、格下ぞろいの選手たちがまさかの接戦に持ち込んだのである。
これほどの窮地を選手たちが体を張って乗り切ったにもかかわらず、肝心の労使紛争はこの試合の後もすぐには解決しなかった。試合結果を伝える報道でも「選手会との対立は依然継続中」とわざわざ付け加えられており、寄せ集めチームの奮闘が、そのまま労使関係の和解につながったわけではなかったようだ。