配信: 2026-09-05 18:00(JST)
夕刊
第129号

イタリアには、現金の代わりにチーズを預かる銀行がある

チナミニチンチラが読み上げます(3分37秒)

銀行の金庫と聞いて思い浮かぶのは、札束か金塊か、せいぜい権利証の束だろう。ところが、そのイメージを大きく覆す銀行がある。イタリア北部にあるその銀行の金庫を開けると、出てくるのはチーズの塊である。

エミリア・ロマーニャ州のクレディト・エミリアーノ、通称クレデム。子会社が運営する倉庫には、なんと50万個を超えるパルミジャーノ・レッジャーノの塊が棚に並んでいる。時価にして3億ユーロ超。「チーズ銀行」と呼ばれている。

これは趣向を凝らした店内装飾ではなく、正真正銘の担保だ。パルミジャーノは法律で最低12か月の熟成が義務づけられ、24か月、36か月と寝かせるものも珍しくない。1個の重さは約45キロ、材料の牛乳は500リットル以上。つまり作り手は、牛の餌代も人件費も製造費もとうに払い終えているのに、商品は1年以上売れない。しかも熟成中は定期的に向きを変え、表面を掃除し続けなければならない。小さな家族経営の工房にとっては、置き場所と資金繰りが同時に首を絞めてくる。

そこでクレデムが1953年に始めたのは、この「まだ売れないチーズ」を預かって金を貸す商売だった。熟成前の若い塊を担保に取り、熟成後の想定価値の6〜8割を先に融資する。銀行は預かった塊を温湿度管理下で熟成させ、品質を検査し、返済が滞れば売る。面白いのは、この担保が置いておくほど値上がりすることだ。社用車やオフィス家具を担保に取る銀行には、絶対に真似できない芸当である。イタリアが年に作るパルミジャーノは約400万個。そのうち50万個ほどが、こうして銀行の棚で眠っている計算になる。

近年では、このチーズ預かりシステムもデジタル化し大きく進化してきている。ブロックチェーンにより、どの塊が誰の担保で、いまどこにあってどんな状態かを記録・追跡できるようにしたことで、チーズを銀行の倉庫まで運ばなくても、生産者自身の熟成庫に置いたまま担保にできるようになった。おかげで融資できる量は一気に倍になったという。

ちなみに、

この70年以上続くこの仕組みも、昨今の猛暑に揺さぶられている。記録的な熱波で倉庫の一日あたりのエネルギー消費は約3割増え、銀行は冷却設備や断熱の増強に追われた。牧場のほうでも、暑さで牛が寝そべって餌を食べなくなり、搾乳量が最大1割落ちる。40億ユーロ規模の産業で、担保の中身どころか担保の原料が減り始めている。酷暑はチーズの数にも影響を与えているのだ。

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