配信: 2026-09-06 07:00(JST)
朝刊
文化第130号

終末を予言したノストラダムス、同じ年にジャムのレシピ本も出していた

チナミニチンチラが読み上げます(3分15秒)

日本でも有名になった「ノストラダムスの大予言」。ルネサンス期フランスの男、ノストラダムスが書いた詩集である。その四行詩はあまりに難解で、後世の人々が好き勝手に解釈しては「的中した」と騒ぎ、生涯にも伝説が雪だるま式に積み上がった結果、彼は大予言者として祭り上げられていった。地震、疫病、戦争——書かれているのはだいたいが災厄であり、予言の精度も今となっては疑わしいと言われる事も多い。

ところが、その予言集が世に出た1555年、彼はなんと、もう一冊まったく別の本を出している。『化粧品とジャム論』である。

比喩ではなく、そのままの意味のレシピ本だ。砂糖漬けのオレンジピール、マジパン。ページをめくれば甘いものの作り方が並ぶ。中でもマルメロのゼリーの章は、色も味も申し分なく「王の食卓に出すにふさわしい」出来だと、章の題そのものに自信が書き込まれている。人類の災厄を書き連ねた男が、ゼリーの見栄えで胸を張っているのである。

これはふざけて書かれたユーモア本ではない。彼の本業は医療の側にあり、若い頃は各地を渡り歩く薬種商として薬草を集めて回っていた。そして当時、砂糖は薬剤師の同業組合が握る管理品目だった。果物を砂糖で煮て保存させる技術は、菓子作りである前に製薬の技術だったのだ。前半が化粧品(歯を白くする粉、髪を金髪に染める方法など)、後半がジャム、という一見ちぐはぐな構成も、当時の薬剤師が書いた本だと思えば筋が通る。

実際この本には、彼が南仏のペスト流行地で使った治療薬の処方も載っている。イトスギのおがくず、すり潰したバラ。そうした原料からなるその薬の効能は、今日では強く疑問視されている。しかし確実に言えるのは、当時の医師たちが尻込みした流行地へ、自ら乗り込んでいった「責任感の強い医療従事者」であったということである。

ちなみに、

同じ本には「惚れ薬のジャム」まで載っている。7羽の雄スズメの血、マンドレイクの実、そして蜂蜜に漬けたタコの腕の吸盤。これを口に含んだまま相手にキスをし、唾液ごと送り込めば、相手の心が燃え上がる——と、著者本人が大真面目に効能を書いている。

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