配信: 2026-09-09 07:00(JST)
朝刊
生き物第136号

カラスは葬式をする。弔いではなく現場検証のために。

チナミニチンチラが読み上げます(3分33秒)

仲間の死骸のまわりに、カラスがぞろぞろと集まってくる。じっと見下ろし、しばらく騒ぎ、やがて散っていく。この光景は古くから「カラスの葬式」と呼ばれてきた。弔い、追悼、おまけに全身黒ずくめ。ここまで役者が揃えば、人間の側が物語を作りたくなるのも無理はない。

ところが、その情緒あるイメージを大きく覆す研究がある。カラスの脳を覗いてみたところ、そこで働いていたのは、悲しみの回路ではなかったのだ。

ワシントン大学の行動生態学者ケイリー・スウィフトらのチームは、死んだ仲間を見せられたカラスの脳が何をしているかを調べた。活発になっていたのは、脳の「執行部」——高度な意思決定を担う領域である。しかもその反応の出方は、タカのような天敵を目にしたときとよく似ていた。

つまりカラスは、悼んでいるのではない。「何がこいつを殺したのか」を突き止めようとしている。あれは集会ではなく、現場検証だったのだ。

そう考えると、行動のほうも一気に筋が通る。見知らぬカラスの死骸に出くわしたカラスは、まず警戒声を上げる。それを聞きつけた仲間が次々に集まって騒がしい群れをつくり、そして15〜30分ほどで解散する。しめやかに佇み続けるのではなく、集まって、確かめて、去る。実に事務的である。さらに彼らは、その後しばらくその場所を避けるようになる。死骸は弔いの対象ではなく、「ここは危ない」と書かれた張り紙なのだ。そしてその警告は、鳴き声を通じて群れの中に共有されていく。

この結論を引き出すために行なった実験方法も凄まじい。スウィフトは2年をかけてシアトル周辺のカラスのつがいを探し歩き、バックパックから剥製を取り出しては見せて回ったという。用意したのはカラスの剥製のほか、ハトやリスの剥製である。死んだ鳥を背負って住宅街をうろつく研究者。文字面だけ追うと相当に怪しいが、そうまでして初めて、鳥が死をどう扱っているのかが見えてくるのだ。

ちなみに、

カラスは死骸をただ検分するだけでもない。春になると、そっと小突く、つつくといった接触行動が見られるようになり、ごく稀にではあるが、死んだ仲間に交尾を試みる個体まで確認されている。春はカラスにとって繁殖期の初期にあたるので、性的・攻撃的な行動系がオンになっていることが要因しているのでは、と推察されている。現場検証にしては、いささか職務の範囲を逸脱していると言わざるを得ない。

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