生き物第217号朝刊

海底に現れる謎のミステリーサークル、描いていたのは12cmのフグだった

チナミニチンチラが読み上げます(3分29秒)

奄美大島の海底に、毎年4月から8月にかけて直径2メートルの円形の模様が現れる。中心から縁へ放射状にいくつもの溝が走り、周囲には二重の土手のような盛り上がりがあって、その上に貝殻の破片が散らばっている。あまりに精巧な図形なので、現地のダイバーたちはこれを「ミステリーサークル」と呼んでいた。奇妙なことに、誰が、どうやって作っているのかは15年以上分からないままだった。

正体が割れたのは2011年。水中写真家が、見慣れない小型のフグが現場で作業しているところを目撃したのだ。2012年には国立科学博物館の研究者が水深25メートルに潜り、サークルの中心部でその魚を直接観察した。全長はわずか12センチほど。砂地を鰭でせわしなくかき回しているのは雄で、やがて雌がサークルを訪れ、中心部で雄と寄り添って産卵する。壮大な幾何学模様は、手のひらサイズのフグが掘った産卵巣だった。

しかもこのフグは新種だった。体に散る白点を奄美の夜空の星々に見立て、アマミホシゾラフグと名付けられた。テレビで放映されると反響は大きく、新種であることに加えて、こんな小さな魚が複雑な構造物を作るという事実に人々は驚いた。2015年には、毎年およそ1万8千も報告される新種の中から選ばれる「世界の新種トップ10」に入っている。

なぜ雄は1週間もかけてこんなものを掘るのか。放射状の溝には、どの方角から流れが来ても中心に海水が集まるという効き目がある。中心の水がよどまないので、卵には常に新鮮で酸素を含んだ海水が届く。ただし、多くの魚は単純な窪みを掘って鰭で水を送るだけで済ませている。そのほうがよほど簡単だ。わざわざ大きなエネルギーを割く理由としては、変化の乏しい砂地で大きな模様が目立ち、雌を呼び込むのに役立っているという見方がある。雄が貝殻を歯で砕いて土手の上に飾りつけるのも、同じ目的ではないかと考えられている。現在も産卵行動の謎が解けたわけではなく、研究はまだ途上にある。

ちなみに、

この手間のかかる産卵巣は使い捨てである。卵は産卵から5日ほどで孵化し、その間に雄は巣の手入れをやめるため、サークルは少しずつ崩れていく。孵化を見届けた雄は巣を去り、二度と同じ円を使わない。次の相手を口説くには、また一から2メートルを掘り直すのだ。

この話、知ってた?
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