歴史第225号夕刊

古代メソポタミアの枕は石でできていた、目的は虫よけ

チナミニチンチラが読み上げます(3分27秒)

低反発、羽毛、5000ドルのオーダーメイド品。枕売り場に並ぶのは、どれも頭をやわらかく受け止めるための品ばかりだ。枕とは寝心地をよくするための道具である、というのが現代の常識だろう。

ところが、現在知られているかぎり最古の枕は、やわらかさとは正反対の素材でできている。石だ。

約9000年前、紀元前7000年ごろのメソポタミア。「文明のゆりかご」と呼ばれる、現在のイラクを中心とした地域だ。そこで使われていたのは、ゆりかごのようにゆるくくぼませた形に削り出された石の塊だった。目的も寝心地ではない。虫よけである。

虫や小さな害獣は、眠っている人間の顔に這い上がってくる。口、鼻、耳。眠っているあいだは無防備で、気づいたときにはもう入り込まれている。石の枕は安眠のための寝具ではなく、虫の侵入を物理的に遮るための実用品だったのだ。

しかも、それを使えたのは誰もがというわけではなかった。石枕を持っていたのは富裕層で、枕の数が多いほど裕福である証とされた。硬い石に頭を乗せて寝ることが、当時のステータスシンボルだったのである。

それから5000年ほど後、古代エジプト人がこの形式を改良する。平らな台座から柱が立ち、その上に首を受ける湾曲した部分が載った「ヘッドレスト」だ。素材は木か石で、やはり硬い。こうして高く持ち上げられた頭は、地平線から昇る太陽を模したものだとされている。

エジプトではここに宗教的な意味も加わった。頭は命の本質が宿る場所と考えられ、死後の世界でも守られなければならない。そのためヘッドレストには悪霊を追い払う力があるとされ、ベスやタウレトといった神々の姿が多く飾られた。夜の闇から邪気を払うためである。

枕がようやくやわらかくなるのは、古代ギリシャ・ローマの時代だ。葦や藁を詰めた枕が作られ、裕福な市民のものには羽根が詰められた。頭が沈み込む枕の登場は、枕の歴史のかなり後半に起きた出来事だった。私たちが当たり前だと思っている寝心地は、比較的新しい発明なのである。

ちなみに、

古代エジプトでは枕を死者とともに墓に納める習慣があり、ツタンカーメンの墓からは8つもの枕が見つかっている。あの世でも頭を守り抜くための、念入りな備えだった。

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