ことば第224号朝刊

「筋肉」の語源は、ラテン語で「小さなネズミ」

チナミニチンチラが読み上げます(2分47秒)

力こぶ、腹筋、ふくらはぎ。体の中で力強さの象徴といえば、筋肉だろう。ところが英語で筋肉を意味する muscle という単語は、元をたどるとまったく正反対の小動物に行き着く。

muscle の祖先は、ラテン語の mūsculus である。mūs は「ネズミ」、-culus は「小さな」を表す縮小辞。つまり mūsculus を直訳すると「小さなネズミ」になる。筋肉を指す言葉は、もともと子ネズミのことだったのだ。

なぜネズミなのか。腕に力を込めると、皮膚の下で筋肉が盛り上がってもぞもぞ動く。古代ローマの人々は、とりわけ上腕二頭筋のこの動きを、そこをネズミが走り回っているようだと見立てたという。筋肉がどう働くかを知らない時代の推測としては、これはこれで悪くない線である。

そして、このラテン語の用法にも元ネタがある。古代ギリシャ語の μῦς(mûs)は「ネズミ」を指す語でありながら、同時に「筋肉」の意味も持っていた。ラテン語の mūsculus は元々持っていた「小さなネズミ」という意味を保ったまま、このギリシャ語の用法をそっくり借りて筋肉をも指すようになったのだ。医学用語で筋肉を表す myo-(筋細胞は myocyte)も、たどれば同じギリシャ語の μῦς である。

そしてギリシャ語の μῦς には、もう一つ意味があった。ムール貝だ。黒っぽくて細長いあの殻も、昔の人の目には小さなネズミに見えたらしい。ラテン語の mūsculus も同じように海の貝を指し、そこから英語でムール貝を指す mussel が生まれた。フランス語でムール貝を指す moule も、遡れば同じ mūsculus の子孫である。力の象徴と海辺の貝は、「小さなネズミ」という一つの見立てだけでつながっているのだ。

ちなみに、

英語の muscle と mussel は発音がまったく同じで、古英語では貝のほうも muscle と綴られていた。二つの綴りが今の形できっちり書き分けられるようになったのは、1870年代になってからである。

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