科学第244号夕刊

フライパンのテフロン、食べると痩せる?

チナミニチンチラが読み上げます(3分23秒)

焦げ付かないフライパン、いわゆるテフロン加工。あの表面を覆っているのは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)という樹脂だ。熱に強く、何にもくっつかず、何とも反応しない。便利だが、普段は意識することもない素材である。

ところが、このPTFEには「食べると痩せる」という、調理とは何の関係もない性質が報告されている。

発端は1960年代、テフロンを開発したデュポン社が行った動物試験だった。狙いは安全性の確認。焦げ付き防止コーティングが体に害を与えないことを示すための試験である。ラットの餌の25%をPTFEに置き換え、90日間食べさせ続ける。結果、毒性の兆候は何も出なかった。しかし、ラットの体重は減っていた。

なぜ痩せるのか。PTFEは体に吸収されず、カロリーにもならない。胃の中でかさばるだけで、栄養としては一切身にならない。餌の四分の一がそれに置き換わっていれば、ラットは腹を満たしながら摂取カロリーだけを落としていたことになる。デュポン社は安全性を証明するついでに、意図せずダイエット食の実験もしてしまったのである。

この副産物を、半世紀後に真正面から拾い上げた論文がある。2016年に『Journal of Diabetes Science and Technology』誌へ載った一本だ。提案は単純だ。食品にテフロンの粉末を混ぜる。体積比で食品3に対してプラスチック1。カロリーを増やさずに胃を満たし、満腹感だけを手に入れるという算段である。著者は麻酔科医のロテム・ナフタロビッチら三名で、題は「カロリー量を増やさずに食品の体積、ひいては満腹感を高める方法としてのポリテトラフルオロエチレン摂取」。冗談のような中身を、一切ふざけずに書いた一行だ。

そして2025年、この提案はきちんと評価される。人を笑わせ、それから考えさせた研究に贈られるイグノーベル賞、その化学賞を受賞したのだ。

ちなみに、

食べる話が受賞した一方で、鍋の素材としてのPTFEは居場所を失いつつある。ミネソタ州をはじめとする複数の州では、この素材を使った新品の焦げ付き防止調理器具を販売できなくなった。PTFEが、規制対象であるPFASに分類されたのが原因だ。食品に混ぜる案が学術誌に載る素材が、フライパンの内側からは追い出されているのだ。

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