配信: 2026-08-09 07:00(JST)
朝刊
生き物第74号

動物園のペンギン、本物の軍の階級章で少将まで出世した

チナミニチンチラが読み上げます(3分53秒)

動物園には「名誉飼育員」や「名誉大使」といった肩書のついた動物がよくいる。任命式でリボンをかけてもらい、名前入りのプレートが掲示板に増える。もちろんそれらの肩書は形だけ。言ってしまえば、かわいいだけの茶番のようなものである。

ところがエディンバラ動物園のキングペンギン、ニルス・オラフの出世は終わらない。1972年、ノルウェー王室親衛隊(King's Guard)の公式マスコットに任命されて以来、伍長、軍曹、曹長、大佐と、本物の階級章をつけて着々と昇進を重ねてきた。そして2023年8月21日、ついに少将への昇進が発表された。名誉称号止まりのマスコットではなく、軍の階級制度そのものに乗せて出世させ続けている点が、この話の核心だ。しかも昇進は一度きりのイベントではなく、数年おきに現実の軍の人事さながら段階を踏んで行われてきた。伍長から少将まで、実在の将校が何十年もかけて歩む出世コースを、律儀になぞってきたことになる。

昇進はセレモニーも本気だった。ノルウェー国王親衛隊のバンドと儀仗隊が動物園内をパレードした後、ペンギンの飼育エリアで特別式典が開かれ、新しい階級章がニルス・オラフに授与された。ペンギンの前でバグパイプと軍楽隊が本物の分列行進を披露し、居合わせた来園者や職員も直立不動で見守るという、なんとも奇妙で律儀な光景が繰り返されてきたことになる。式典の格式はペンギン相手とは思えないほど厳粛で、動物園側も軍側も一切茶化していないところがこの話の面白さを支えている。

もうひとつ見逃せないのが、現在の称号に刻まれた「III世」という文字だ。つまり任命から半世紀以上、同じ「ニルス・オラフ」という名前と階級を、代替わりしたペンギンたちが引き継いできたということだ。個体としてのペンギンの寿命は数十年で尽きても、称号だけがひとり歩きしながら格上げされ続けている構図は、ペンギンのイメージする気楽さとは程遠い。ナイト爵(Sir)まで授与され、正式には「サー・ニルス・オラフIII世少将」と呼ぶのが今の彼(もしくは彼ら)の肩書ということになる。歴代の担当ペンギンが代替わりしても称号と階級だけは引き継がれ、下がることなく上がり続けてきたという点は、多くの実在の勲爵位よりも一貫している。

ちなみに、

ギネスが彼について記した称号には「世界で最も階級の高いペンギン」の他にもうひとつ「Baron of the Bouvet Islands(ブーベ島男爵)」という一節がある。ブーベ島はノルウェー領で、南大西洋の南極寄りに浮かぶ無人島。定住者どころか常駐の研究者すらほとんどいない、地球上でも指折りの絶海の孤島だ。ペンギンが軍隊の階級を半世紀かけて上り詰めた挙句、南極圏の孤島を領地として手に入れたというのは、この出世物語らしい落としどころと言える。

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