ウサギはニンジン好き、というのは実はイメージだけだった
うさぎのイラストや絵本を描くとき、口にニンジンをくわえさせておけば、まず間違いなく「ウサギだ」と伝わる。ペットショップの飼育コーナーの壁にもニンジンの絵が描かれているし、キャラクターグッズやアニメの世界でも定番の組み合わせだ。子ども向けの図鑑ですら「ウサギの好物」としてニンジンを挙げていることがあるほどで、この結びつきは、もはや説明抜きで通じるほど社会に浸透している。
ところが、この「ウサギはニンジンが大好物」というイメージ、動物としての実態からするとかなりずれている。野生のウサギの主食は、牧草やクローバーのような濃い緑色の葉物で、ニンジンのような根菜を特別好んで食べているわけではない。そもそも野生下でウサギがニンジン畑に出会う機会自体が少なく、彼らの体はもともとニンジンを大量に食べる前提ではできていない。
むしろニンジンは、ウサギにとって諸刃の剣に近い存在だ。英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)や英国の動物福祉団体PDSAの指導によれば、ニンジンやリンゴのような根菜・果物は、あくまで「たまのごほうび」として少量だけ与えるべき食材とされている。理由は糖分の多さにある。ニンジンには糖分が多く含まれる一方で牧草などに比べて食物繊維は少なく、日常的に大量に与え続けると、消化器官や歯の健康を損ないかねない。ウサギの歯は生涯にわたって伸び続けるため、繊維質の多い牧草をたくさん噛んですり減らす必要があるのに、ニンジンばかり食べていては、その大事な役割を果たせなくなってしまう。さらに糖分過多や食物繊維不足は腸内環境の乱れにもつながりやすく、ウサギの消化器系はもともとデリケートにできているため、飼育書では体調不良の一因として繰り返し注意喚起されている。
実際のところ、PDSAも認めている通り、多くの飼いウサギは与えられればニンジンを喜んで食べる。つまり「好き嫌い」でいえば決して嫌いではない。しかし「好んで食べる」ことと「食事の中心に据えるべき」こととは全く別の問題で、専門機関が口をそろえて強調するのは、ウサギの食事の主役はあくまで良質な牧草や、それに類する草であるべきだという点だ。ニンジンはその横にたまに添えられる、週に数回のご褒美程度の存在にすぎない。
では、なぜここまで「ウサギ=ニンジン」のイメージが定着したのだろうか。断定的な理由は資料からは分からず諸説あるが、少なくとも生態としての裏付けはなく、あくまで文化的に作られたイメージだと考えるのが妥当だろう。かわいらしい絵柄として広まった組み合わせが、いつの間にか「動物としての事実」であるかのように扱われるようになった、よくある思い込みのひとつと言えそうだ。
野生のウサギが草を食べに巣穴から出てくるのは、一日中ではなく主に夜明けと夕暮れの時間帯に集中しているという。日中は物陰に隠れて天敵の目を避け、薄暗い時間帯を狙って手早く食事を済ませる、なかなか慎重派の生き物なのだ。