知らないうちにエントリーされていた彫刻のオリンピックで、いきなり金メダルを取った男
オリンピックの舞台に立つには、何年もかけて代表争いを勝ち抜き、自ら出場資格を勝ち取るのが普通だ。エントリーというのは選手本人が申請書類を提出し、選考を経て初めて成立するものだから、「気づいたら出場していた」などという話はまず起こりえない。
ところが1992年、フランスで開催されたアルベールビル冬季五輪に合わせて開かれた彫刻大会で、そんなあり得ない話が実際に起きた。メキシコの彫刻家アベル・ラミレス・アギラルは、自分でもいつの間にか出場者としてエントリーされていたのだという。しかも初出場でいきなり金メダルを持ち帰ってしまった。
アギラルはもともと木や石を素材にする伝統彫刻を手がけてきた作家で、雪や氷を彫るようになったのは、彫刻家としてのキャリアをかなり積んでからのことだった。趣味の延長で雪像や氷像づくりを始めていたところ、いつの間にか周囲の誰かが彼を国際大会にエントリーしてしまっていたらしい。本人の申告や書類手続きなしに大会の出場者名簿に名前が載る、という時点ですでに規格外だが、驚くべきはその後の結果だ。
とはいえ、アギラルは完全に無防備で本番に臨んだわけではなかった。エントリーの経緯こそ本人の与り知らぬところだったが、大会前には故郷メキシコシティの製氷工場に通い、氷を削る感覚をあらかじめ体に叩き込んでいたという。木や石の彫刻作りは、ノミで少しずつ削り出す静かな作業だが、氷はもっと大胆に、しかも短時間で仕上げる必要がある一発勝負に近い。だが、畑違いの技術に思えて、実は根っこの部分ではつながっていたのかもしれない。競技の結果、彼はアルベールビル大会に付随するこの彫刻大会で見事金メダルを獲得した。長年木彫りや石彫りで培ってきた、立体を読み取る目と手の技術が、素材が氷や雪に変わっても十分に通用したのだろう。
この一勝は一度きりのまぐれでは終わらなかった。金メダル獲得をきっかけに、アギラルはその後20年以上にわたって世界各地の氷雪彫刻大会に招待される彫刻家としてのキャリアを歩むことになる。記録によれば、彼はこの分野で金メダルに加えて銀メダル2個、銅メダル3個も手にしているといい、単発の椿事ではなく実力に裏打ちされた活躍だったことがうかがえる。木や石を彫ってきた一人の伝統彫刻家が、ある日突然「知らないうちに」五輪の舞台に立たされ、そのまま氷雪彫刻の世界的な名手として20年超のキャリアを築いていった――そんな数奇な経歴の持ち主は、世界中を見渡してもそう多くはないはずだ。エントリーの経緯を知らされた本人が、その後どんな心境で氷の前に立ち続けたのかは記録に残っていないが、少なくとも結果だけは雄弁に物語っている。
アギラルが金メダルを獲得したこの彫刻大会、開催地は五輪のメイン会場だったアルベールビルの街そのものではなく、少し離れた山岳リゾート、ヴァロワールだったとされる。冬季五輪では雪や氷を使う関連イベントが、雪質や設備の都合でメイン開催都市から離れた町に振り分けられることは珍しくなく、彼の金メダルも記録上は「アルベールビル/ヴァロワール」という形で残されている。
出典
独立した出典 4件- 大手Abel Ramírez Águilaren.wikipedia.org
- 一次El Salón de la Plástica Mexicana rinde homenaje al escultor Abel Ramírez Aguilar con la exposición Vida, obra y sueños (INBA)inba.gob.mx
- 一般Abel Ramírez Aguilar — artacartac-aiap.org
- 一般Las increíbles esculturas de hielo del surrealista mexicano Abel Ramírez Aguilarmxc.com.mx