文化第160号夕刊

初代「ドラゴンクエスト」の意外な容量削減方法

チナミニチンチラが読み上げます(3分37秒)

「ダースドラゴン」。初代『ドラゴンクエスト』に登場する強敵の名である。強そうで独特なこの響きは、スターウォーズに出てくるダース・ベイダーを彷彿とさせる。——おおむね、暗黒面の帝王にあやかった名前、そう思い浮かべた人も多いのではないだろうか。

ところが、この名前はスター・ウォーズとは無関係である。開発陣が本来つけたかったのは「ダークドラゴン」。ドラゴンより一段強い敵、という素直なネーミングだった。それが「ダース」になったのは、このゲームの中に「ク」という文字が存在しなかったからである。

初代『ドラゴンクエスト』は1986年にエニックスから発売されたファミコン用ソフトで、メモリの容量はわずか64KB。現在のスマホで撮る写真1枚分にも及ばない。この中にマップも戦闘も冒険のシナリオも詰め込むため、開発チームは削れるものを片っ端から削っていった。その徹底ぶりは、青いスライムとオレンジ色のスライムベスなど、同じ絵の色違いバージョンを別モンスターとして扱っていることからも窺える。そして削る手は、ついに文字にまで及んだ。

カタカナ50音をすべて表示する余裕はない。そこで当時のプログラマーである中村光一さんは、別のゲーム『ポートピア連続殺人事件』で使っていた「よく使う20文字のカタカナ」を『ドラゴンクエスト』に流用する。イ、カ、キなど選ばれた20文字に、濁点と音引きを組み合わせる。これだけで、ドラクエ世界のカタカナはすべて表現されていた。その20文字に「ク」は入っていなかったのである。

つまりダースドラゴンは、強そうな名前を狙って付けられたのではなく、やむなく改名させられた敵だったのだ。

この制約の痕跡は、ゲームのあちこちに残っている。「ク」も「エ」も使えないため、作中でタイトルを示すときの表記は「ドラゴンくえすと」。「モ」がないので、敵の総称は「モンスター」ではなく「まもの」。舞台となるアレフガルドも「ア」と「フ」が無いせいで、作中ではただ「このち」と呼ばれている。ファンタジーの世界なのにどこか日本的で素朴、という初代ドラクエ独特の手触りは、苦肉の策でカタカナを削り、違和感のないひらがなへ置き換えた結果なのかもしれない。

ちなみに、

この文字のやりくりは続編にも影を落としている。「リ」と「ヘ」はひらがなとカタカナの形が似ていることから、ひらがなの「り」「へ」がカタカナとして代用されていた。その名残で、『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』の「アリーナ」「クリフト」も、正しくは「ア"り"ーナ」「ク"り"フト」と表記されている。人気キャラクターの名前は、カタカナとひらがなの混成だったのだ。

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