Bluetoothという名称は、千年前の王に由来する
音声を読み込めませんでした。少し待ってからもう一度どうぞ
Wi-Fi、USB、HDMI。身の回りの通信規格の名前は、だいたい英字の略語で、意味を考える人はいない。そのなかでBluetoothだけが妙だ。直訳すれば「青い歯」。無線とも通信とも関係がなく、なぜ歯なのか、なぜ青なのか、名前を見るたびに引っかかる人は多いはずだ。
種明かしをすると、これは人名に由来している。10世紀のデンマーク王ハーラル・ゴームソン、あだ名は「青歯王」。分かれていた部族をひとつのデンマークにまとめ、キリスト教化を進めた王として北欧史に名を残す人物だ。
1997年、インテルのジム・カーダックとエリクソンのスヴェン・マティソンは、PC業界と携帯電話業界という別々の業界を、ひとつの短距離無線規格で結ぼうとしていた。提案が通らなかった会合の帰り道、トロントのパブで飲みながら北欧の歴史を語り合ううちに、ばらばらの勢力を統一したハーラル王が、自分たちの仕事にそのまま重なった。カーダックは王のあだ名「青歯王」に由来する「Bluetooth」を、正式名称が決まるまでの仮のコードネームとして提案する。本命は「RadioWire」や「PAN」だったが、仮の名のほうが先に業界へ広まり、差し替える間もなく規格そのものの名前になってしまった。翌1998年、エリクソン、インテル、ノキアなど5社がこの名を掲げてBluetooth SIGを発足させている。
では、なぜ王は「青い歯」と呼ばれたのか。由来には諸説あるが、有力なのは虫歯説だ。Bluetooth SIGの公式サイトによれば、ハーラル王には虫歯があり、それが暗い青灰色に見えたことからこの呼び名がついたとされる。別の史料はさらに生々しく、「濃い青、ほとんど黒に近い、腐った歯」と伝えている。褒め言葉でもなんでもなく、口の中で目立つ一本の悪い歯にちなんだ、身体的特徴のあだ名だったわけだ。ブルーベリーを食べすぎて歯が青く染まっていた、という可愛らしい俗説もあるが、史料的には虫歯説のほうが有力とされる。
それにしても、腐った歯なら色は黒のはずで、なぜ「青」なのか。ここには当時の色彩感覚が関わっている。古ノルド語で青を意味する「blár」は、現代の鮮やかな青ではなく、青みを帯びた黒から暗い色全般までを指す幅の広い言葉だった。年代記に残る綴り「Blachtent」も、直訳すれば「青みがかった、あるいは黒い歯」になる。緑色の信号を「青」と呼び、深い緑を「青々とした」と言う日本語の感覚に、少し似ている。当時の北欧の人々にとって、黒ずんだ歯を「青い歯」と呼ぶのはごく自然なことだったのだ。
あの見慣れたBluetoothロゴも王に由来する。電波を図案化した記号ではなく、ハーラルの頭文字にあたる北欧のルーン文字、ハガル(ᚼ)とビャルカン(ᛒ)を重ねた合字である。当時の北欧で実際に使われていた文字で、王の名前のイニシャル「H・B」を刻んだサインが、千年後のスマホの設定画面に表示されているということになる。
出典
独立した出典 6件- How Bluetooth Got Its Name - Kardach.comkardach.com
- Tech History: How Bluetooth got its name - EE Timeseetimes.com
- Origin of the name | Bluetooth Technology Websitebluetooth.com
- 大手Harald Bluetooth - Wikipediaen.wikipedia.org
- Bluetooth: How an everyday technology is named for a Danish king (and blueberries)retrospectjournal.com
- The Bluetooth symbol was inspired by Old Norse runes.historyfacts.com