科学第190号夕刊

気泡緩衝材(プチプチ)は「壁紙」の失敗作だった

チナミニチンチラが読み上げます(4分20秒)

荷物を送ったことがある人なら、梱包に使用する気泡入りのビニールシート「プチプチ」を知らない人はいないだろう。フリマアプリの発送でも通販の届け物でも、割れ物を包む場面では真っ先に頼られる存在で、多くの人は「最初から緩衝材として開発された定番アイテム」だと思っているはずだ。

ところがこの製品、生まれてから最初の3年間、一度も緩衝材として使われたことがなかった。1957年、アメリカのエンジニアだったアルフレッド・フィールディングとマーク・シャベンヌの2人が開発に着手したとき、目指していたのは梱包材ではなく「おしゃれな壁紙」だった。当時のビート・ジェネレーションの若者たちに向けて、凹凸のある立体的な質感を持つ壁紙として売り出そうとしていたのだ。2枚のビニールシートを重ねて真空成形し、その間に規則正しく空気を閉じ込めて気泡の列を作るという製法自体はこの開発の中で確立されたのだが、肝心の壁紙としては誰の関心も引かず、事業はあっさり失敗に終わった。

普通ならここで開発をやめてもおかしくない。しかし2人は諦めず、用途を変えて再挑戦する。次に狙ったのは温室用の断熱材だった。気泡の中に閉じ込められた空気の層には、確かにある程度の保温効果が期待できる。しかし、実際に温室に敷いて実験しても実用に足るほどの効果は得られず、こちらも普及しないまま終わってしまった。壁紙、断熱材と狙いを変えるたびに失敗を重ね、このビニールシートが何のために存在するのか、開発者自身にもわからなくなっていた3年間だったわけだ。今の私たちが知るプチプチの姿からは想像もつかないほど、地味で報われない下積み時代である。

転機が訪れたのは1960年のことだ。当時IBMは新型コンピューター「1401」を発売したばかりだった。1401はのちに「コンピューター業界のT型フォード」と呼ばれるほど広く普及することになる機種だが、精密機械である以上、輸送中の衝撃から守るための梱包材がどうしても必要だった。そこに、行き場を失っていたあの気泡シートが白羽の矢を立てられる。柔らかく弾力のある気泡の層は、衝撃を吸収する緩衝材としてこれ以上ないほど適していた。壁紙としても断熱材としても居場所を見つけられなかったシートは、こうして「精密機器を守る梱包材」という誰も想定していなかった役割を得て、以後60年以上にわたって世界中の壊れ物を守り続けることになった。もし1960年にIBMが新型コンピューターを発売していなければ、今ごろこのビニールシートは誰の記憶にも残らないまま、歴史から消えていたかもしれない。

ちなみに、

1960年当時、IBM1401を受け取った多くの顧客にとって、ともに届いたこの奇妙な素材を見たことすらなかったという。今ではすっかりお馴染みのあの手触りも、登場したばかりの頃は「これは一体何なのか」と戸惑われる未知の素材だった。壁紙にも断熱材にもなれず3年間さまよい続けたシートが、最終的には新型コンピューターとともに受け取り手を驚かせるそんざいになるとは、開発者たちも想像していなかっただろう。

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