生き物第198号朝刊

ブラジルの刑務所に携帯を密輸したハト

チナミニチンチラが読み上げます(3分47秒)

刑務所への携帯電話の密輸と聞いて、どんな手口を思い浮かべるだろうか。面会者が服の下に隠して持ち込む、塀の外から投げ込む、差し入れの品に紛れ込ませる——いずれにせよ、人の手が絡む方法というイメージではないだろうか。

ところが2009年3月、ブラジル南東部ソロカバ近郊のダニロ・ピニェイロ刑務所で見つかった運び屋は、人間ではなかった。職員が気づいたのは、電線にとまっている一羽のハトである。その足には、小さな布の袋が結ばれていた。餌でおびき寄せて捕まえ、袋を開けてみると、中から出てきたのは小型の携帯電話の部品だった。

そして翌日、今度は刑務所の運動場で、同じような袋を引きずって歩く別のハトが見つかる。袋の中身は、携帯電話の充電器だった。本体と充電器が、二日に分けて、別便で届けられていたのだ。

なぜハトが、よりによって刑務所に向かって飛んでくるのか。答えは、その鳥たちの生まれた場所にある。警察の見立てでは、ハトは刑務所の中で生まれ育てられ、いったん外へ持ち出されたうえで、携帯電話の部品を括り付けられて放たれていたという。ハトは本能として、必ず巣へ帰る。その巣が塀の内側にあるなら、あとは外で放すだけで、荷物は自分で飛んで帰ってくる。高い塀も、面会室の身体検査も、まるごと飛び越されたのである。

巧妙なのは、送り主の足跡がほとんど残らないところだ。当時の捜査では、誰がハトを育てたのかも、携帯電話を待っていた受刑者が誰なのかも分からないままだった。警察は電話会社から契約の情報を辿るしかなかったという。

わざわざハトを使って携帯電話を届けるのは手間がかかるが、それだけの理由もある。ブラジルの刑務所で携帯電話が厳しく禁じられているのは、受刑者が家族と話すためだけの道具ではないからだ。収容者の中には犯罪組織の一員もおり、塀の内外で指示をやり取りする手段として使われる。2006年には、サンパウロの犯罪組織が刑務所内からの携帯電話で警察や銀行への襲撃を指揮し、200人以上が死亡する事態まで起きている。たかがハト一羽の足に結ばれた袋が、看守にとっては笑えない話なのだ。

ちなみに、

ハト便はこの一件で終わらなかった。同じ年の7月、同じ刑務所の塀のすぐ外で、小さな手製のリュックを背負って疲れ果てたハトが捕まっている。袋の中に入っていたのは、携帯電話一台と、それを待っている受刑者の名前を書いた紙だった。サンパウロ州の刑務所行政の担当者によれば、ハトを使った密輸はもはやありふれた手口になりつつあり、「職員は今、受刑者だけでなくハトにも目を光らせている」という。

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