生き物第208号朝刊

ニホンリスは、人間なら死んでもおかしくない量の毒キノコを平気で食べ続ける

チナミニチンチラが読み上げます(4分16秒)

ベニテングタケは、赤い傘に白い点々が散った、絵本やゲームでおなじみのキノコだ。見た目は愛らしいが、れっきとした毒キノコで、食べればひどい中毒を起こす。山で見つけても絶対に口に入れてはいけない——というのが、人間にとっての常識である。

ところが、その常識が通じない相手が日本の森に住んでいる。ニホンリスだ。長野県在住のアマチュア写真家、五味孝一さんは、八ヶ岳山麓でベニテングタケをむしゃむしゃと食べるニホンリスの姿を撮影した。しかもベニテングタケだけではない。傘が黄色いコガネテングタケ、灰色のテングタケと、毒キノコを好き嫌いせず平らげている。五味さんはテングタケを食べるリスを初めて見たとき、死んでしまうのではないかと心配したという。だが翌日も、その次の日も、リスは元気に食べに来た。

この写真をもとに、神戸大学大学院理学研究科の末次健司准教授が考察した論文が、学術誌『Frontiers in Ecology and the Environment』に掲載されている。末次准教授によると、テングタケの自生地周辺に1匹しかいなかった春生まれの子リスは、同一個体と判別できる状態で、6月29日から7月5日までのあいだに4回もテングタケを食べに通っていた。人間に換算すれば相当なダメージを受け、死んでもおかしくないような量だという。それでいて吐き戻す様子もないのだから、リスにはそれなりの毒への耐性があると考えられる。ただし解毒のメカニズムそのものは、いまも分かっていない。

なぜキノコ側も、こんな大食いを許しているのか。キノコの毒は食べられるのを防ぐためだと一般には考えられているが、末次准教授はまったく逆の仮説を立てた。テングタケ属は、胞子を運ぶのに適した相手であるリスにわざと体を食べさせ、見返りに胞子を運んでもらっているのではないか——つまり、植物がおいしい果実で動物に種子を運ばせるのと同じ関係が、毒キノコとリスのあいだにも成り立っている可能性がある。毒は、リス以外の動物を追い払う門番の役を果たしているという見立てだ。胞子は非常に細かいので、糞に混じるだけでなく、ふわふわした体表にくっついて運ばれることも考えられる。もっとも、これはまだ仮説の段階で、糞の中に生きた胞子があるかを確かめる研究が必要だという。

リスにしても、まったくの無害ではないのかもしれない。末次准教授は、リスにとっても少しは毒があると考えられ、たくさん食べれば腹を壊すから少しずつ食べる、その結果として胞子が一カ所にまとめて落ちず、少量ずつ広い範囲にばらまかれるという可能性も指摘している。毒を薄く効かせて食べ方まで制御しているとすれば、キノコ側はなかなかの策士である。

ちなみに、

リスのキノコ食は毒キノコに限らない。小さなものはその場で、大きなものは数日がかりで食べ、ほかのリスに取られないよう丸ごと樹上に隠すこともある。食べきれない分は樹上に貯食するようで、乾燥したテングタケを冬に食べている姿も目撃されている。毒キノコを、干し椎茸のように保存食にしているのだ。

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