鳩時計、出てくる鳥は鳩ではなくカッコウ
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毎正時に小窓がぱたりと開き、鳥が顔を出して時を告げる。鳩時計は、日本の家庭でも長く親しまれてきた壁掛け時計だ。しかし、奇妙な話だが、あの小窓から出てくる鳥は鳩ではない。
ドイツ語ではKuckucksuhr、英語ではcuckoo clock。どちらもカッコウ時計という意味で、こちらが本来の呼び名である。発祥はドイツ南西部、「黒い森」と呼ばれるシュヴァルツヴァルト地方。森林資源に恵まれて木工が盛んだった土地で生まれた木製の振り子時計で、行商人が背負って売り歩き、ヨーロッパ中へ広まった。鳩時計という名前で呼んでいるのは日本だけで、世界ではいまもカッコウの時計なのだ。
なぜ日本で鳥が差し替わったのか。最も有力とされるのは、漢字が原因だという説である。カッコウは日本では古くから「閑古鳥」と書かれ、客の来ない暇な店を指して「閑古鳥が鳴く」と言う。そしてかつての掛け時計は、家の新築や店の開店を祝う贈り物の定番だった。めでたい席に、閑古鳥が鳴く時計を持ち込むわけにはいかない。そこで、鳴き声が似ていて平和の象徴でもある鳩に名前を代えて売られるようになったという。日本にカッコウ時計が入ってきたのは1930年頃、昭和の初めごろである。
変わったのは名前だけで、中身には手が入っていない。鳴き声は、時計の内部にある高音と低音の2つのふいご(アコーディオンのような蛇腹)が空気を送り、パイプオルガンなどに使う笛を2本鳴らして作られる。再現しているのは、はじめからカッコウの声だ。近年普及している電池式のクォーツモデルでも、小鳥と一緒に流れるのはカッコウの鳴き声を録音した音か、ふいごの音である。日本の壁で毎時間鳴いているのは、名前だけ鳩に変わったカッコウなのだ。
この鳥の縁起を気にしたのは日本だけではない。ヨーロッパではカッコウは縁起の良い鳥とされることが多く、ノルウェーでは鳴く木の下にいると願いが三つ叶うと言われてきた。しかし同じノルウェーには、鳴く方向で吉凶を占う習わしもあり、北で鳴くと死者が出るとされた。そのため、家の北側にこの時計を置かない風習があるという。カッコウ自体を気にしない国でも、置く方角を気にすることがあるようだ。