科学第232号朝刊

死んだ蚊の口を3Dプリンターのノズルにしたら、精度が市販品の2.5倍になった

チナミニチンチラが読み上げます(3分57秒)

3Dプリンターでどこまで細かいものが作れるかは、材料を押し出す先端ノズルの内径でほぼ決まる。航空宇宙や歯科、医療研究で使われる超高精度のノズルは金属やガラスを精密に加工して作られ、使い捨てにもかかわらず一本80ドルを超える。さらに材料の都合上、自然には分解されない部品だ。

ところが、この一本80ドルの部品を死んだ蚊で置き換えてしまった研究チームがある。カナダのマギル大学のチームは、メスの蚊が血を吸うための口を顕微鏡下で摘出した。それを市販の吐出ノズルの先端に、ごく少量の樹脂で貼り付けたのだ。これで引けた線の幅は20マイクロメートル、細い髪の毛の半分ほどである。市販品でいちばん細いものでも50マイクロメートル前後なので、2.5倍の精度だ。おまけに生分解性(微生物によって分解できる性質)でもある。この研究は2026年のイグノーベル技術賞を受賞した。

なぜ蚊なのか。チームも最初はまともな工学的解決策を探したが、安い・高精度・生分解性という三つを同時に満たすノズルはどこにも売っていなかった。そこで大学院生に、ノズルの代わりになる器官を自然界から探してくるという課題を出す。ヘビの牙や昆虫の針、植物の道管などを片っ端から検討した末に、メスの蚊が勝ち残った。メスの蚊が血を吸うための口は、内径がちょうど20マイクロメートル。長さ2ミリで、ほとんど反りがなく硬いため、印刷中に軸がぶれない。内側から約60キロパスカルの圧力をかけても破れず、粘り気の強いバイオインクを押し出すには十分な強さだった。

チームはこの口を載せるために3Dプリンターのほうを自作し、手法に「3Dネクロプリンティング」と名付けた。この手法でハニカム構造やカエデの葉をかたどった微細構造、そしてがん細胞や赤血球を一個ずつ収めた細胞培養用の足場などを作り上げることができた。これらはすべて、『Science Advances』に掲載された正規の論文の成果である。

もちろん生き物の部品なので寿命もある。多くは14日ほど、長くても1か月で使えなくなる。しかも、作るには死んで間もない蚊が必要だ。それでも圧力を安全な範囲に収めてきれいに洗えば、一本を何度も使い回せるという。

ちなみに、

材料の蚊を手配する段でも予想外のことが起きた。チームを率いていたチャンホン・カオ氏は、蚊に刺されるのを防ぐ塗り薬の開発にも携わっており、そのプロジェクトの同僚に蚊を20匹ほど分けてほしいと頼んだところ、最低1万匹送ることになると言われたのだ。蚊は生物学的危険物として扱われ、決まった手順で殺菌して冷凍保管されているからだという。チームはその1万匹を丸ごと引き受け、研究を終えた今も9000匹ほどが手元に残っている。

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