気絶した仲間の舌を引っ張り出す——マウスの「応急処置」
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イルカやゾウが、危機に陥った仲間を助けようとする。こうした救助行動は、大きな脳を持つ動物の特権だというイメージではないだろうか。知能の高い哺乳類が見せる、高度な社会性の表れだと長く考えられてきた。
ところが2025年、その前提を覆す報告が科学誌『Science』に載った。主役はマウスである。麻酔で意識を失った仲間を見つけたマウスは、まず匂いを嗅ぎ、次に毛づくろいを始める。そして、口に噛みついて舌を引っ張り出すのだ。
これが単なる好奇心やいたずらではない。南カリフォルニア大学の研究チームが調べたところ、この舌引っ張りは気絶した仲間の気道を実際に広げており、処置を受けたマウスは放置されたマウスよりも明らかに早く回復して歩き出した。人間の応急処置でまず気道を確保するのと、やっていることが同じである。噛みつきを伴う点は人間のやり方とかなり違うが、狙っている結果は変わらない。舌の引っ張りが麻酔状態からの素早い覚醒につながる神経回路も、別の研究で特定されている。
この行動は、意識のない仲間に出会った全ケースのうち半数で確認された。さらに研究者が気絶したマウスの口に異物を詰めてみると、8割のケースで救助側がそれを取り除いた。奇妙なことに、同じ異物を肛門や生殖器に置いた場合は完全に無視された。口の中だけが特別扱いなのだ。
では、これは目新しいものへの好奇心ではないのか。研究チームは、5日間繰り返しても救助の試みが続くこと、そして見知らぬ個体より顔見知りの仲間に対して処置を行う傾向が強いことを突き止めた。状況と相手が誰であるかを踏まえて反応を組み立てているのであって、目の前の刺激に反射的に応じているのではない。救助側のマウスには意識のない仲間を救助した経験がなかったことから、この行動は生まれつきのものだと考えられている。処置をしている最中、救助側の脳では社会的な絆に関わるホルモン、オキシトシンの増加が確認された。マウスが助けようと意図しているのかどうかは断定できないと研究者は慎重に留保をつけるが、極限状態の相手を助けようとする衝動が多くの種に共有されている証拠が増えた、と専門家は評している。仲間を助けたいと思う気持ちは、ネズミも人間も共通なのかもしれない。
この処置が発動する相手には明確な線引きがある。すでに死んでいる仲間に対しても蘇生の試みは行われた。しかし、ただ眠っているだけの仲間には一切行われなかったのだ。マウスは「動かない」ことではなく、「反応がない」ことを見分けている。