科学第239号朝刊

絞首刑で何が起きるか知るため、法医学者は自分を12回吊った

チナミニチンチラが読み上げます(3分43秒)

法医学は、亡くなった人の体に残された痕跡から、そこで何が起きたのかを読み解く学問だ。首吊りや絞首刑で人体がどうなるのかという研究も、当然、遺体を調べることで積み上げられてきた。生きている人間で試すわけにはいかない。

ところが、20世紀初めのルーマニアに、それを試した法医学者がいる。名はニコラエ・ミノヴィチ。首を吊られたとき体に何が起こるのかを突き止めるため、彼は自分の首に縄をかけた。それも一度や二度ではない。自らを被験者とする吊り下げ実験を、12回も繰り返したのだ。

手順はこうだ。まず、引いても締まらない結び方の縄を首にかけ、足が地面から2メートル浮くところまで吊り上げられる。縄には張力を測る計器を取り付けておく。結び目を首のどこに当てるかを変えながら、視界の異変、肌の色の変化、耳鳴りといった症状と、それが現れるまでの速さを記録していく。助手のひとりが縄を引き、経過時間を声に出して数える。一回あたりはおよそ5秒。少しずつ時間を延ばしていき、最長で25秒ぶら下がり続けることに成功した。

彼にはもう一つ狙いがあった。1832年に自分の首を2分間絞めたという医師の記録を、破るつもりだったという。だが結果は遠く及ばなかった。最後の実験で、彼は実際の絞首刑で使われる、引けば締まる結び方の縄を選んだ。足は地面に着けたままだ。それでも持ちこたえられたのは4秒で、彼は助手に中止の合図を出した。研究書の中では「どれだけ勇気を振り絞っても、3、4秒より長くは耐えられなかった」と、繰り返し弁解を書き添えている。この一回のあとは、1か月のあいだ物を飲み込むたびに痛みが走った。

こうした成果は200ページの研究書『絞首の研究』にまとめられ、1904年にルーマニア語版、翌年にフランス語版が出版された。約200件の首吊り事例を結び目の種類などで分類した、本格的な一冊である。自分の体だけでは足りず、志願者の首の血管を5秒ほど圧迫する実験も行った。頭が熱くなる感覚や手足のしびれといった証言も、そこで集めている。

それから約40年後の1941年、ミノヴィチは独身のままブカレストで亡くなった。死因は声帯の病で、繰り返した首への負荷が影響したのではという見方もある。

ちなみに、

彼は自宅と、自宅に集めたルーマニア民芸品のコレクションを国に遺している。絞首刑を調べ尽くした男の家は、今はブカレストの民俗美術館として公開されているのだ。

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