科学第238号夕刊

リスが隠した種、3万2000年後に咲く

チナミニチンチラが読み上げます(4分4秒)

園芸店で売っている種の袋には、まき時と一緒に有効期限が印刷されている。きちんと保存しても数年、長くもって十年ほどで発芽率は落ちていく。乾いて眠っているように見えて、種は静かに劣化していく。

ところが2012年、ロシア科学アカデミーの研究チームが米科学アカデミー紀要に発表した成果は、その常識を大きく覆す。シベリアの永久凍土から掘り出した植物の実から、花を咲かせたのである。実の年代は放射性炭素年代測定で3万1800年前(誤差プラスマイナス300年)。同じ地層からはマンモスの骨も出ている。そんな時代の植物が、研究室で花を開いた。

咲いたのはスガワラビランジという、ナデシコ科の小さな草だ。今もシベリアの北極圏や日本北部の山地に生えているので、絶滅種ではない。

面白いのは、その実が凍土に残っていた経緯だ。発掘現場はコリマ川下流域の地下20〜40メートル。そこにあったのは、ホッキョクジリスが食料を貯め込んだ巣穴だった。貯蔵室は約70個見つかり、ひとつの部屋には60〜80万個もの種や実が詰まっていた。

本来なら、こうした貯えは冬のあいだに本人が食べてしまう。しかしこの一帯は洪水などで一気に埋まった。しかも貯蔵庫はもともと永久凍土の高さに掘られていたから、中身はほとんど即座に凍りついた。そして以後、一度も融けなかった。巣穴の中はマイナス7度に保たれ続けたのだ。リスの食料庫が、そのまま3万年動かない冷凍庫になった。

もっとも、凍っていれば勝手に芽が出るわけではない。チームは最初、実から取り出した成熟した種を発芽させようとしたが、これは失敗した。そこで狙いを変え、実の内側で種がくっついている胎座という組織の断片を培養してみる。すると、傷のない未熟な実3個から36株が育った。

育った株は、現代のスガワラビランジと見分けがつかなかった——花が咲くまでは。開いた花びらは今の株より長く、間隔も広かった。なぜそうなったのかは分かっていない。

では、なぜ3万年も生き延びられたのか。研究チームは、組織の細胞がショ糖に富んでいて、それが保存剤のように働いたのではないかと推測している。地面の自然放射線によるDNAの傷も、年代のわりに異常に少なかったという。

それまでの最古記録は2000年前だった。イスラエルの死海近く、マサダ要塞跡で見つかったナツメヤシの種から育った木である。永久凍土のリスの食料庫は、その記録を一息に過去へ押し下げてしまった。

ちなみに、

よみがえったこの古代植物は、咲いて終わりではなかった。人工授粉で実らせた種をまいてみると、発芽率は100%。現代のスガワラビランジが90%だったので、3万年前の株のほうが元気だったのだ。

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